『通貨・仮想通貨の未来像』
『仮想通貨制度に関する経過報告』
『パネルディスカッション』

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カリキュラム及び概要

  • 通貨・仮想通貨の未来像
     東京大学大学院 経済学研究科 教授 柳川範之氏
  • 仮想通貨制度に関する経過報告
     森・濱田松本法律事務所 弁護士 増島雅和氏(当会理事)
  • パネルディスカッション
     柳川 範之氏(東京大学大学院 経済学研究科 教授)
     三根 公博氏(マネックス証券株式会社 執行役員)
     宮口 礼子氏氏(協力仮想通貨業者会員:Payward Japan株式会社 日本事業代表)
     畠山 久志氏(当会理事:中部学院大学 経営学部経営学科長 教授)
     増島 雅和氏(当会理事:森・濱田松本法律事務所 弁護士)
     モデレータ:幸 政司(当会代表理事)
  • フリーディスカッション・質疑応答
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通貨・仮想通貨の未来像

講師:東京大学大学院 経済学研究科 教授 柳川範之氏

貨幣に関する経済学の基礎理論的なところを話して、仮想通貨に関してどういうインプリケーションがあるのかをお話ししたいと思います。
少し基礎論的なことをお話ししますが、趣旨はそういうところがある意味でこれからの仮想通貨の在り方を大きく規定して行く、あるいは仮想通貨がどのように発展して行くかというところに示唆を入れられると思うからです。

経済学の中での貨幣の話は大きなウェイトを占めていまして、議論をし出すとなかなか難しい話ではあります。一方、未だに経済学の中では貨幣は大きなミステリーでございまして、完全には解明されていない部分が多いのも事実です。

そもそも貨幣の役割は何かというと「物々交換をうまく行かせるようにするのが貨幣の役割だ」というのが、教科書の最初に出てくる話です。
物々交換が何故うまく行かないのかというのは、「欲求の二重の一致」というのがありますが、要するにAさんとBさんが物々交換をする時には、相手が自分の欲しいものを持っているという構造が両方にないと物々交換と言うのは成立しないわけです。ところが、相手が自分の欲しいものを持っているというのは、かなりレアなケースなわけです。
自分は相手が欲しいものを持っているかもしれないが、相手は自分が欲しいものを持っていないことが殆どのケースになるので、物々交換が貨幣が無くても回って行くためには「欲求の二重の一致」が双方で取引をしておこうとすると必要になる。
これだと本来の取引が進まないので、ここに貨幣的な資産の果たす役割が出てくるということです。

(全体は正会員・特別会員のみ公開)
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仮想通貨制度に関する経過報告

講師:森・濱田松本法律事務所 弁護士 増島雅和氏(当会理事)

一番初めに言われていたのは、そもそも仮想通貨は財として法的にどのような取扱いを受けるのかがわからないという話が出ていました。
仮想通貨法を作ったのは良いが、デリバティブをどのように取り扱うのか、貸金業法上はどのように取り扱うのか等、色々な論点を考えた時に仮想通貨の法的な性質がわからないと、他の金融業法に仮想通貨の取扱いについての規律を作ることが出来ないと金融庁に言われたことがきっかけでございます。
そのように言われてしまうと困るので、司法的な性質の整理をしなくてはいけないという話を当勉強会でもやらせて頂きました。

私法の議論は色々と存在をするのですが、どのような整理を概ねしているかというと、仮想通貨が民法の中では物権と債権という二つの財産的な価値が存在をしておりまして、物権か債権かという議論がされることになります。
物権は日本の法律の中では有体物でなくてはならない、要するに見えるものでないと物権にならないというのが原則でございます。
もし、見えないものを物権的に取り扱うのであれば、特別法を作るという体系になります。
法律があり物権的な位置づけになるものの典型が知的財産権でございまして、特許権やその類のものになるわけですが、そのようなものとして仮想通貨を位置づけるという話になりますと壁にぶつかるということでございます。

一つ言えるのは、仮想通貨はどんどん生まれてくるということと、国を隔ててどんどん移転をしていくので、国の範囲で法律を作り「これが仮想通貨である」と言ったところで、一体意味があるのかという議論になるということでございまして、法律を作る議論は難しいのではないかと思います。
そうすると、物権でもないし債権でもないが、何か財産的な価値があるものはないかという議論の中で、最近では排出権のようなものに似ているという議論が比較的優勢になっております。
ただ、排出権は日本で法律が存在をしていまして、それをどのように移転をするか等、実は法律が存在をしているという面があります。
排出権と似ているから排出権と同じ議論をしようとしても、仮想通貨の法律が必要なのではないかという議論になるのが若干弱いところではあるのですが、実は排出権も法律に基づいて取引をされているものと、法律に基づかずに国際的に取引がされているものが存在をしていて、いずれも財として認められておりますし、会計上の処理も概ね決まっているものがありますから、そのようなものに比較的近いものとして仮想通貨を位置づけてはどうかというのが一致をみている見解だという事になります。

仮想通貨がブロックチェーンに載るという性質を含めて考えますと、司法上の性質としては人々の合意に基づいて生まれた何等かの財産という位置づけを一時的にしておけば良いと考えております。
ここでの合意と言うのは契約上の法的なものというよりは、皆の期待によってこのような価値があるのだろうという緩い意味での合意、さらにプロトコルという意味でのブロックチェーンの仕組みの下で生まれた仮想通貨について取引をする合意があるという約款的な構成をしているわけですが、そのようなものとして位置付けておけば解釈の方向が出るのではないかという議論をしています。

(全体は正会員・特別会員のみ公開)
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パネルディスカッション

(東京大学大学院 柳川氏)
スライドの最後の方を残しておりましたけれどもフィンテック一般のところを書いてあるのですが、今日、お話になっているような仮想通貨やビットコインを中心とした仮想通貨の話だと、信頼性と法的な安定性をどのように確保するかというのが肝だということになります。
信頼性と法的な安定性を両方分けた部分は、一番のポイントは法的な安定性なのですが、法律をどのようにきちんと整備をしていくかというところですが、それだけではダメで、現状での法律はかなり不完全な形でしかできません。

市場なり民間の人たちがどれだけ信頼ができるシステムになると思えるかというところが一番の重要なカギで、事業者の方々が積極的にアプローチをして行かないと、受け身でやっていてはダメだということが一番申し上げたかったポイントなのですが、自主規制団体の役割がとても重要で、この種の話は全ての事が分かった上で法律が作られるというのは期待できないことです・・・

(マネックス証券株式会社 三根氏)
我々は証券会社として議論をしておるのですが、大きく分けてトレーディング材料として、値段が上下するのを売買して手数料をもらうというビジネスモデルの時と、単純にお金の決済手段の代わりとして使ってもらうという二つの取り方しかないと思いまして、どちらのやり方で取り組むかによってもだいぶ変わるとは思うのです。

前者だと、十数年前にFXが出てきて色々な社会的問題が起こり、2006年には金融先物取引法(現在の金融商品取引法)の中にFXが取り込まれ、登録業者としてやらなくてはいけないとなったというのがあります。
今回も、業者の加入姿勢や営業姿勢が望ましくなければ結局のところダメということですが、その部分は敢えて何も踏み込んでいないので不確かなところはあります・・・

(当社理事 畠山氏)
FXの取引では為替取引の自由化によって当初1,000ぐらいの業者が出来て、一部の業者はかなり乱暴な取引をされたということで社会問題になり、それをどうしようかということになった。また当時金融取引一般について仕組債などの商品が大きな損失をもたらした事件もありました。結局、FXは金融先物取引法(現在の金融法品取引法)で規制することになりました。
今回、仮想通貨の現物については法的な枠の中に入るという事で正当業務行為ということになります。しかし、それ以外のデリバティブ等については明確ではありませんが法的な枠組みから外れると思われますので賭博性の領域にあります・・・

(Payward Japan株式会社 宮口氏)
アメリカで特別というわけではないのですが、現存する規制には当てはまらないものがあるので、事業者が積極的に働きかけていかなければならないという部分は承知していますし、アメリカは特にコンプライアンスがきちんとしていないと、ある日突然大きな罰金を受けてビジネスが潰れてしまうという状況がありますので、始める前から頑張ってやってきているのです。

それは消費者に対しての働きかけもそうですし、テクノロジー自体を理解して安心をしてもらう以外には、現存の規制に当てはめ難いけれども、どれぐらいやらなければいけないのだろうかと当てはめるように考えています。
例えばマネートランスミッターライセンスを取るだけで相当かかかるので、東証を受けるようなスタートアップはそれだけでお金が無くなってしまう・・・

(全体は正会員・特別会員のみ公開)
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フリーディスカッション

(代表理事 幸)
会場の方を含めて、忌憚のないところでのディスカッション、または質問がありましたらお願いします。

(株式会社マネーパートナーズ 奥山氏)
無くならない債務というものを中央銀行が発行していて存在をし続けているもので、今の国債の発行残高は発行したら終わりではなく、基本的には残高が残っているからこそ借りたものは消せないというところで国が非常にもがいているわけでございます。

ビットコインでは誰から誰に送られたかわからなくなり迷子になるようなものや有価証券では迷子になって新聞で広告を出して持ち主を探すようなものと、ポイントは退蔵益勘定で一定の期間が経ってしまうと勝手に消滅をさせていいというルールが適用されていますが、仮想通貨では発行体における責任と取り扱う人の責任や、無くなる場合には何を持って無くならせても良いのかというところはどのように考えて行けば良いのかというのを・・・

(東京大学大学院 柳川氏)
発行体の債務や発行体の責任は独立に発行されたものが価値をもって流通しているという話で行くと、ある意味で流通をし始めるというのが貨幣の本質なのだろうと思います。
日銀は発行した後に責任を持たないわけです。
普通は発行体の責任は伴わない、発行体の債務でもないものが相当な規模で流通をするということはありえないだろうと考えられていたのが、このビットコインの驚くべきところは技術的な仕組みを作ることにより、そこと切り離したものが相当な程度の価値として流通し始めたというところに非常に大きなポイントがあると思います・・・

(全体は正会員・特別会員のみ公開)
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