『金融審議会 資金決済WG報告の解説・報告を踏まえたステーブルコインに関する提言の解説』
『パネルディスカッション』

カリキュラム及び概要

  • 日時:2022年1月26日(火) 17:00〜19:00
  • 場所:オンライン配信

 

第一部・第二部 :
『金融審議会 資金決済WG報告の解説』・『金融審議会 資金決済WG報告を踏まえたステーブルコインに関する提言の解説』

河合 健氏 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業パートナー
佐野 史明氏 片岡総合法律事務所 パートナー

 

(佐野)
 私から、本年の1月初旬に公表された金融審議会の資金決済ワーキング・グループの報告書の中から、ステーブルコイン以外の部分をかいつまんで、ご説明いたします。
 報告書は3本柱であり、1点目は、『銀行等におけるAML/CFTの高度化・効率化に向けた対応』です。具体的には、銀行等のマネーロンダリング対応との関係や、取引フィルタリング、モニタリングの観点から、事業者に対しての業規制の在り方をどのように考えるかという内容になります。
 2点目は、電子移転可能型の前払式支払手段、このうちの高額のものに関して、犯罪収益移転防止法を含めたAML/CFT対応を求めにいくような規制が新しく課せられる可能性が高いということです。この2点に関してご説明します。
 資料は金融審議会が公表している事務局説明資料を使用します。
 元々マネーロンダリング対応の高度化等への対応が加速されたきっかけになったのは、FATFの第4次対日総合審査における有効性審査で、日本に関しては、金融機関等の監督、あるいは金融機関等によるマネーロンダリング、テロ資金供与対策に不合格水準がついてしまった出来事になります。
 これを受けて、政府から行動計画が発表されました。第1回金融審議会、資金決済ワーキング・グループの資料4ページ、赤囲いの『(4)取引モニタリングの共同システムの実用化』が、金融庁が担当するかたちで、令和6年を期限とし、政府が取り組むべき一つの計画に位置付けられました。このような背景で今回の法律改正に至った経緯があります。
 実際のマネロン対応について、犯罪収益移転防止法、外国為替および外国貿易法の法体系のところは割愛します。取引フィルタリング、取引モニタリングの部分ですが、取引フィルタリングは、経済制裁の対象者リストと顧客情報を突合し、経済制裁者対象者等リストの中に入っている人に該当するかを確認する作業になります。取引モニタリングは、疑わしい取引の届け出をするに際し、異常取引自体が発生していないかといったスクリーニングを行うものです。取引フィルタリング、取引モニタリングに対しては、フィルタリングシステムについては大抵の金融機関で導入されているものの、FATFからは効果が非常に限定的であると指摘されています。モニタリングシステムも、そもそもこのようなシステムを導入している金融機関は限定的です。あるいは、システムを導入している金融機関でも誤検知が多く、その有効性が必ずしも十分ではないといった指摘もあります。それらの指摘を踏まえ、今回、取引モニタリング、取引フィルタリングを銀行から委託を受けて行う事業者、共同機関を創設した上で、そちらに対する法規制の在り方を考えていくといった全体感になっています。

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(河合)
 私からはステーブルコインに関する報告についての解説をいたします。通常、資金決済ワーキング・グループ報告が出ると、それに基づいて法制化が進んでいきます。コロナの影響もあり得るため完全に予測の範囲となりますが、本国会に法案が提出され、6月中旬までの通常国会の中で国会を通過する可能性がそれなりに高いと考えられます。通常、短ければ1年程度、長くても1年半程度で施行に至ると思われるため、非常に喫緊の課題といえます。
 ステーブルコインの法制化の必要性については事業者からも数多く声が上がっていました。暗号資産の規律を受けるのか、為替取引としての規律を受けるのか、またはそれ以外なのかといった点が明確ではなかったために、ステーブルコインが実際に日本で発行・流通されることがほぼありませんでした。ステーブルコインの実態に即した法規制が入るほうが発行や流通が進んでいくのではないかといった意見も多く、JCBAのステーブルコイン部会でも議論を進めています。
 他方で、国際的な動きが金融庁の説明において契機になりました。資料は、2021年12月28日に
開催された第5回金融審議会で使用された資金決済ワーキング・グループの資料を参照します。Facebookのリブラ構想が出て以降、IOSCOでグローバルステーブルコインについての議論がされました。リブラが通貨主権や金融秩序の安定に影響を及ぼすのではないかといった議論がなされ、その後、FATFからステーブルコインに関する報告書が出されました。2021年10月にアップデートされている『GuidanceforaRisk-BasedApproachtoVirtualAssetsandVirtualAssetServiceProviders』、いわゆるVASPに関する規制ですが、この中でもステーブルコインのマネロンリスクについて指摘があります。アメリカでは、大統領金融市場作業部会、略称PWGでステーブルコインについての規制案が公表されており、EUでも同様の動きがあります。国際的な議論の高まりを受け、日本でも検討が加速されたと理解しています。
 大統領金融市場作業部会では、発行者は預金取扱金融機関、つまり銀行に限定する案が出ています。この案については反対の意見も多いのは事実です。このような背景もあり、日本でも法規制を入れたほうがいいのではないかといった議論になっているというのが資金決済ワーキング・グループでの検討の前提となります。また、FATFの第4次審査が出たことも影響しているでしょう。
ステーブルコインはどのように規律されるのでしょうか。資料7ページの上段、四角囲いの所をご覧ください。資金決済ワーキング・グループでは、ステーブルコインは、二つの種類に分かれると整理されています。一つ目は、『法定通貨の価値と連動したかたちで発行され、発行価格と同額で償還を約するもの』であり、デジタルマネー類似型のステーブルコインと位置付けられています。典型的には、USDCや、恐らくUSDT、TUSDも当たるでしょう。金銭で担保されており、金銭で償還が約束されているものです。通貨建て資産に当たるため、暗号資産の定義からは除外されています。デジタルマネー、為替として規制されるべきであるというのが報告書の内容になっています。

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(河合)
 ありがとうございました。
 今後の法律や内閣府令、監督指針ガイドラインによりますが、国内でパーミッションドなビジネスについては、今回の法制で少し明確化されるため、ビジネスはやりやすくなるのではないかと思われます。例えば、パーミッションドであれば、国内でデジタル証券の決済にステーブルコインが使えるなど、そのようなところはポジティブな話になります。一方、世界で流通しているパーミッションレス型のステーブルコインについては、日本での取り扱い規制が非常に難しくなる、あるいは芽が摘まれるといった事態にならないよう、何らかの方向性が出てきてほしいと考えます。また、そうするべきであろうというのが当協会の意見となります。

 

 

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第三部 : 『パネルディスカッション』

白石 陽介氏 ㈱HashPort 社外取締役/㈱ARIGATOBANK 代表取締役CEO
千野 剛司氏 クラーケン・ジャパン 代表
佐野 史明氏 (前掲)
(モデレーター)河合 健氏 (前掲)

 

(河合)
 今回、法制が出て、方向性が示されていますが、まず千野さんには海外事情についてお伺いしま す。現在、アメリカ等において、ステーブルコインとして実際に何がどのように使われているのかといった辺りや、大統領ワーキング・グループでは厳しい話も出ていましたが、当局の姿勢やその辺りについての情報を共有していただければと思います。

(千野)
 われわれクラーケンはグローバルで展開している取引所であるため、国外においては、当然ながらテザーや USDC を含め、ステーブルコインを取り扱っています。
 まず、諸外国においては、ステーブルコインを暗号資産の一形態と捉える認識がかなり強く存在します。国内では、資金決済法上、通貨建て資産に該当する可能性があるとされ、海外で流通しているステーブルコインは、暗号資産として国内で取り扱われるのは事実上不可の状態にあると認識しています。一方、海外主要国において、ステーブルコインを何か規制するようなフレームワークは、現 状、特に存在しないと理解しています。
 ユースケースとしては決済ニーズです。ブロックチェーン経済圏、あるいはクリプトエコノミーの世界で、ブロックチェーン上で全ての取引を完結したいという強いニーズがある中で、現金に代わって価値が変動しにくいステーブルコインの特性がかなり重宝されている様子です。特に、われわれが力を入れている機関投資家向けのサービスでは、ステーブルコインがクリプト経済圏において半ば基軸通貨的な使い方をされており、高額な銀行手数料やSWIFT ネットワークを介した決済のタイムラグ等を排除したかたちで、タイムリーかつ資金を自由に動かせます。また、価格変動の大きいクリプト市場からエクスポージャーをオフする局面において、現金に換えるのではなく、ある種、滞留資金としてステーブルコインへ移すといった使い方もされています。昨今、NFT や DeFi といったような技術革新が進んでいますが、そこでは、ステーブルコインが必要不可欠なツールとなります。このような追い風もあり、諸外国ではステーブルコインが相当普及をしている状況です。

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(白石)
 現状、ステーブルコインが国内で流通していないため、ユースケースを出してくれといった話になるとしんどい部分もあります。個人の投資家がDeFiでステーブルコインとのペアでイールドファーミングを行い、低リスクで資産運用をするのは一般的になりつつあります。ただ、日本人は現状、ステーブルコインを海外取引所から入手せざるを得ません。国内投資家を保護するために、国内の事業者に対して規制をかけ、自主ガイドラインでルールを決め、しっかりと運用していこうとしているのにもかかわらず、やりたいことができないため、結果的に海外へ行ってしまうという現状が、本当に投資家保護になっているのだろうかという疑問が一つあります。
 DeFiは、一昔前はよく分からない世界として、大きなボラティリティーがある一方で、プロジェクトが突然吹き飛ぶ等のリスクも大きいなど、かなりマニアックでイノベーティブな分野と捉えられていたかもしれませんが、現在では、既存の金融機関とクリプト企業が組み、比較的リスクを抑えたようなかたちで、既存の投資商品に代わるような商品を開発し、提供しているケースも続々と出てきており、1クオーター過ぎればトレンドがまるっきり変わっていることもあるわけです。日本は、議論のポイントや議論をスタートしている瞬間がそれほど遅れているわけではありませんが、熟考して議論を続けている中で、業界の世界観が変貌してしまい、その議論内容が現状に即さない事態になるケースも見受けられます。方向性が見えたときには、その姿が既に古くなっているなど、そのような繰り返しに陥ってしまっているのではないかといった大きな危機感を持っています。

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(佐野)
 為替取引というようにひとくくりにした際に、例えば銀行が提供する為替取引は完全に安心安全であり、銀行が倒産した場合も預金保険が 100 パーセント適用され、全額保護がされて、しかも、金月処理ですぐにお金が返ってくるといった仕組みは、それはそれで絶対に必要なのでしょう。他方で、資金移動業者のように、100パーセントのお金はあるけれども、倒産した際に金月処理されてお金がすぐに返ってくるかというと、必ずしもそうではないといった話があります。
 為替取引では、このいずれかのパターンしかないため、どちらかに当てはまらないとするとどうすればいいのかといった問題が起きているのかもしれないと何となく感じています。安心安全ではない送金サービスがあっても、それはそれで別にいいのではないかといった考え方も割りきりとしてはあり得るのではないでしょうか。利用者保護に欠けてはならないというところもある反面、利用者保護を厳格にやりすぎると、結局は既存の制度にしかフィットしないものになり、使い勝手が悪くなるといった話になると、本末転倒です。その意味では、例えば、ステーブルコインであるがゆえのリスクをしっかりと顧客へ説明することが重要でしょう。海外発行のステーブルコインの場合は、海外で発行者が倒産すると、実際にお金が戻ってこない可能性もあるなど、決済手段を利用するにあたってのリスク説明を行った上で、それとのあいの子ではありませんが、ある程度、顧客の保護が図れるようなルールメーキングを仲介者が中心となり進めていくのは、十分あり得る法制度なのではないかとも考えています。


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(千野)
 現在、事実上、ステーブルコインは日本国内で取り扱うことができないというところに、今回、このような議論が、当局の発案によって行われているのは、業界として好意的に評価すべきことだろうと考えています。実際にどのような実務上の取り扱いになるかという点は、法案が通過してから実際に議論が開始されると思われるため、JCBA としてそこへ向けてさまざまな取り組みを行い、また他の団体や組織でも行っていく必要があるでしょう。そのような声を集約し、規制当局、立法担当者のほうへ還元していくことが求められているアクションなのだろうと受け止めています。期待を込めて、今後もこの議論に参加していきたいと思っております。

(河合)
 素晴らしい締めをいただきました。ありがとうございます。パネルディスカッションは以上として、力丸さんにお戻しします。皆さん、ありがとうございました。

 

 

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