『コンプライアンス分野におけるブロックチェーン分析の活用と実例』
『資金決済法改正案及びステーブルコイン等金融デジタル化への影響の解説』

カリキュラム及び概要

  • 日時:2022年3月29日(火) 17:00〜19:00
  • 場所:オンライン配信

 

第一部 :
『コンプライアンス分野におけるブロックチェーン分析の活用と実例』

重川 隼飛氏
・Chainalysis Japan株式会社 Senior Solutions Architect
山本 光子氏
・ビットバンク株式会社 AML統括部統括チーム マネージャー

 

(重川)
 ChainalysisJapanの重川です。第1部の前半は、『コンプライアンス分野におけるブロックチェーン分析の活用と実例』と題してお話をいたします。後半は、コンプライアンス部門を担当されているビットバンク株式会社の山本さんと対談形式でお送りし、実際にブロックチェーン分析がコンプライアンス分野でどのように使われているのか、実例を交えてお伝えできればと考えています。
 冒頭、Chainalysisの会社概要をご紹介します。当社はブロックチェーン分析、暗号資産のお金、取引の流れを追跡する業務を専門としている会社です。暗号資産の交換業者、金融機関、政府機関に対して、分析のツールやコンプライアンスのツールをはじめとする製品やサービスを提供しています。
 当社はその業務の特性上、特に法執行機関とのつながりが強いため、Chainalysisが捜査に関わった事件も時には表沙汰になることもあり、コインデスクやコインテレグラフ等にも記事が掲載されるケースもあります。スライドに示すのは、今までの数ある事件の中でも特に公表された事案でブロックチェーン分析が活用されたものです。先週もNFTに関する詐欺の罪によって2名が米国で逮捕されましたが、犯罪行為がブロックチェーン分析で特定できると、そのような成果も得られます。

 本日、主にお伝えしたいのは、暗号資産の追跡可能性、マネロン対策におけるブロックチェーン分析の活用、日本国内における活用事例の3点です。暗号資産は匿名性が高い、リスクが高いといわれることもありますが、逆に、パブリックな情報がもたらす透明性の利点もあります。透明性があるからこそマネロン対策に活用できるケースもあるため、その辺りのお話もしたいと思います。日本国内における活用事例は、私の話だけではなく、後半の対談でも盛り込めればと考えています。)
 最初に、ブロックチェーン分析の概要です。暗号資産の特性として、利便性や流動性を挙げています。普通のお金のシステムと異なる点を言うと、利便性としては、決済業者や銀行を介さずインターネット上で、国境に関係なく、容易かつ安価に送金が可能であり、暗号資産自体にも金銭的な価値も付けられています。また、ある程度の匿名性も存在します。ただ、完全な匿名性ではないのがポイントです。)
 暗号資産のトランザクションは公開台帳に記録されていきます。ただ、公開されているとはいえ、細かく読み解くのはかなり困難な話となります。特に交換業者からすると、モニタリングしろといわれても、台帳とにらめっこをして何かを見いだすのはほぼ不可能に近いでしょう。暗号資産取引の追跡の難しさについて考えてみると、一つは、アドレスのみを見ても具体的に誰のものなのかよく分からない点があります。アドレスも一人一つとは限らず、無制限に生成されます。取引の連鎖を追おうにもアドレスがばらけているような状態であるため、同一人物のアドレスか別人の手に渡ったのかという点はそれほど明示的ではありません。ただ、十分な情報や分析能力があれば、疑似匿名性を打破できる場合があります。)
 Chainalysisやブロックチェーン分析会社が具体的に何をしているかというと、アドレスのクラスタ化と識別です。最初に、同一人物、同一組織が持っている膨大なアドレスをひとまとめに、つまりクラスタ化します。クラスタ化したものに対して識別情報を付け、誰のものか突き止めます。この作業を経て、文字の羅列としてばらばらにあったアドレスがグループ化され、名前が付き、ランサムウエア、ダークネット、制裁対象のもの、盗難された資金等、資産の出どころと出先が判明してきます。)
 クラスタといっても、識別するカテゴリも数種類あります。国際的に最も問題とされているのは『リスク特大』カテゴリであり、テロ資金、児童虐待コンテンツの配布サイト、経済制裁対象となっているものです。その次は『リスク大』カテゴリであり、違法性の高いエンティティです。違法な物品を販売しているダークネットマーケット、ランサムウエア、ハッキング等で盗まれた資金、詐欺、イラン等の高リスク国が行うサービスが挙げられます。『リスク中』カテゴリは、KYC、コンプライアンスの緩い取引所や、ミキシングサービス、ギャンブル等があります。特に気にしなければいけないのは、リスク特大と大のカテゴリでしょう・・・

 

 

(山本)
 初めまして、ビットバンクでAML/CFTを担当している山本と申します。AML/CFTとは、マネーロンダリングおよびテロ資金供与対策を担当する業務であり、特に、リスクの金融機関で需要のある非常にニッチな職業です。他の業界から暗号資産業界へ転職し、この3月で1年半が経過します。
 当社の部門概要についてご紹介します。AML統括部という先端部があり、トラベルルール等も含めたAML/CFT高度化のための規格全般を推進しています。他にも、ブロックチェーン分析をはじめとした取引モニタリング業務や、検知した疑わしい取引に関する警察への届け出、研修やAML関係の委員会運営、当局対応、定常業務等を実施しています。私が入社した当時はコンプライアンス部でAML/CFTの専任者は私一人しかいませんでしたが、現在では4名ほどになり、今月からめでたくAML統括部という先端部が組織され、さらなる事業拡大を目指していく予定です・・・

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(山本)
 ロシアの関係があったため、今後は当局のプレッシャーがかなり高まっていくだろうと見ています。中長期的には技術の発展により、ライトニングネットワーク等の話になると高速の送金が可能となり、人の目で見られる世界観ではなくなっていくのかもしれないと、当社のCTOがよく言及しています。Chainalysisのツールを警察が使い、ウタトリが出せるようになると非常に有用ではないかと考えているのですが、いかがですか。

(重川)
 警察との連携になると、仕組みが変え難い点があることや、さまざまなところで課題が見えます。われわれとしても法執行機関のやりとりはあり、このようなツールが普及していかなければ、彼らも追おうとしてもギブアップするでしょう。ツールとノウハウの提供を含めて、普及に努めていく段階です。

(山本)
 ウタトリがツールで出せれば、皆さんもChainalysis一択になります。

(重川)
 山本さん、ありがとうございました。対談パートは以上となります。
 最後に告知ですが、本日3月29日に、2022年暗号資産関連犯罪レポートの日本語版がリリースされましたので、ご興味ある方はダウンロードください。

 

 

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第二部 :
『資金決済法改正案及びステーブルコイン等金融デジタル化への影響の解説』

河合 健氏
・ アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 外国法共同事業 パートナー
佐野 史明氏
・ 片岡総合法律事務所 パートナー

 

(佐野)
 片岡総合法律事務所の佐野です。本日は、先日、国会に提出された資金決済法改正案に関して、その中でも、ステーブルコインに対する改正内容をご紹介できればと考えています。

 アジェンダですが、私から改正法の概要についてお話しし、その後、ステーブルコインである電子決済手段という新しく定義されたものの内容を説明します。ステーブルコイン発行者、またはステーブルコインを仲介したいと考えている業者に対してどのような規制がかかるかという点にも触れます。今回の改正は、資金決済法が中心になっている改正ではありますが、それとともに、銀行法も一部改正されています。電子決済手段の仲介業者に対してKYCの義務もかかってくるため、犯罪収益移転防止法上の規制も一部改正がされています。アジェンダの最後に挙げている『今後の検討課題(論点)』としては、今後、政府令や事務ガイドラインがパブリックコメントにかかってくると思われますが、そちらを踏まえつつ、どのような課題があるか、河合先生から説明をいただきます。
 まず、『1.改正法の概要』です。改正法の概要としては、『電子決済手段等(ステーブルコイン)への対応』、『銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応』、『高額電子移転可能型前払式支払手段への対応』と、大きく三つの対応がされています。
 『銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応』についてはFATFの対日審査を受けてのマネロン対策を共同対応する共同機関を作り、新しくライセンス制を採用するという対応になります。
 『高額電子移転可能型前払式支払手段への対応』については、高額取引な転々譲渡が出来る仕組みの前払式支払手段について、発行者に犯収法上の規制をかけていくものとなります・・・

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(河合)
 アンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合です。先ほどの佐野先生の解説を踏まえ、今後、どのようなところが論点になっていくかお話しします。

 今回の資金決済法改正では、内閣府令や政令に委任されている点が非常に多く、それらの点が実際には非常に重要なポイントとなります。例えば金銭預託がどこまでできるか、4号の電子決済手段は何になるのかといった辺りは内閣府令を見てみなければ分かりません。法改正の流れで言うと、通常の場合、5月から6月にかけて提出案が国会を通過し、公布されます。公布から1年以内の2023年の4月から6月あたりで実際に法律が施行されるでしょう。内閣府令やガイドライン案が出てくるのは2022年の年末年始あたりになるのが通例です。その後、パブコメのフェーズを経て、内閣府令等が固まり、施行に至ります。

 そのような大きな流れの中で今後は何が議論になってくるか見ていきます。一つ目に、海外発行パーミッションレス型のステーブルコインが実際に取り扱いできるかは、暗号資産交換業の業界、その他のWeb3ビジネスをしている主体にとって非常に興味があるところでしょう。少なくともワーキンググループの段階では、この辺りのトークンに対してやや消極的で、前向きではなく、厳しい規制がかかるだろうといった方向性が示されています。例えば発行主体の破綻時にユーザーが適切に保護され、償還を受けられることが重要とされ、国内拠点の設置や資産保全を求める必要があるといった論点もあります。
 今回の法改正では、『発行者との契約締結義務』として、電子決済手段等取引業者は、発行体と契約を締結する義務があり、そこで責任分界点等を決めるようにとされたため、海外発行者ともその手続きが必要になります。それが実際にできるのかという問題が存在するでしょう。内閣府令で定める場合は契約締結の免除があり得ますが、どのようなケースが除かれるのかは興味の対象です。取り扱いステーブルコインの適切性の審査も必要になりますが、金融庁や自主規制団体で行われる取り扱い審査の内容も論点になります。ちなみに自主規制団体は、現時点では不明です・・・

 

 

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