『暗号資産がアセットクラスとして認知されるために必要なこと』

カリキュラム及び概要

  • 日時:2023年8月31日(木) 17:00〜18:30
  • 場所:オンライン配信
  • 第一部(講演) 17:00〜17:30 : 『暗号資産がアセットクラスとして認知されるために必要なこと

    第二部(パネル) 17:30〜18:30 : 『パネルディスカッション
    (講演概要)
    今年の6月15日に最大手の資産運用会社のブラックロックが、暗号資産現物ETFの申請を出してから、米国に於けるメインストリームの資産運用業界と、新興の暗号資産業界が急速に協同作業に入っています。早ければ今年10月、遅くとも来年1月には承認が下りてファンドが立ち上がると言われています。過去にも様々な、新しい資産クラスが紹介され、障害を乗り越えながら、個人や機関投資家のポートフォリオに組み込まれて来ました。暗号資産現物ETF商品化のインプリケーションについて、第一部で坂口からご紹介します。第二部のパネル・ディスカッションでは、暗号資産が本格的に投資家に採用される為には、何が必要か? 年金をはじめとした機関投資家のコンサルタントを務める、大和ファンド・コンサルティングの中川専務、野村證券が提供する個人富裕層向けSMA及びラップ・プログラム等の投資助言を行う、野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティングの津留シニア・コサルタントから、現在暗号資産がアセット・クラスとしてどのように見られているか、お話を伺います。

     

    ■ 講演者
    第一部
    坂口 誠氏
    Cumberland Japan株式会社 Japan Country Head
    当会 金融部会長

     
    第二部
    (パネリスト)
    中川 晴氏
    株式会社大和ファンド・コンサルティング 専務取締役
    津留 智浩氏
    野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社(NFRC) CIOマネジメント部 シニアコンサルタント

     
    (モデレーター)
    坂口 誠氏 : (前掲)

 

 

第一部 :
『暗号資産がアセットクラスとして認知されるために必要なこと』

坂口 誠氏 :Cumberland Japan株式会社 Japan Country Head ・ 当会 金融部会長
 

(坂口)
 私はカンバーランド・ジャパン代表の坂口誠です。JCBAの金融部会で話をする中で、本年に入って米国で暗号資産を使った金融商品や金融商品化、金融の規制への注目度が急速に高まっており、議論も煮詰まって、役者もそろってきています。世界最大の米国市場が動くと世界中が引っ張られるので、私たちがするべき準備や、来るべきものへの備えという部分で金融部会の活動のねじを巻き直している感じです。
 冒頭の事務局説明のように、最初はもう少しレバレッジ規制ができるようにする、スペキュレーターもヘッジャーも入りやすくなるようにする、ということです。また、金融世界のメインストリームである保守本流の投資家たちは、今はまだサイドライン上で様子見をしている状況ですが、彼らがそろそろ入ろうとしている状況になっています。その準備を一気に加速させたのは、本年6月15日の世界最大のアセットマネジメント会社であるブラックロックの現物ETF申請です。そこをターニングポイントにして、現在、米国は業界を挙げて、話し合いと準備をしています。
 その中で、私たちJCBA金融部会は、暗合資産を使ったものの半年後、1年後、2年後、3年後のロードマップを作っていきたいと考えており、手始めとして、今回の話があります。

 ETFはExchangeTradedFundsの略です。よく対照的に扱われるのは非上場の追加型の投信です。皆さんが確定拠出型で、あるいは証券会社や銀行で買う投資信託は非上場ですが、それに対して上場投信というものもあります。これが、日本では約20年、米国では本年ちょうど30周年を迎えます。チャートを見るとどちらも加速度的に伸びており、米国では現在残高約1000兆円で、日本では70兆円を超えています。いずれも、ようやく世の中で認知されて成長してきました。日本ではパッシブの他にアクティブのものも可能になり、ますます成長が期待されます。
 ETFが大事な理由を話します。日本では特殊な歴史があり、本格的成長はこれからですが、米国の場合には、機関投資家や個人のポートフォリオの中でも、確固たる地位を得ています。特に米国の個人投資家でETFを買っている人には、平均年齢が若い、学歴が高い、所得が高い、金融資産が多いという特徴があり、よりソフィスティケートされた人たちが積極的にETFを活用しています。その理由は本日の本題ではありませんので後日お調べいただきたいのですが、米国ではそのように成長しています。
 なぜこの急成長するETFが大事なのでしょうか。暗号資産を念頭に置く人は、その将来的な市場成長に関しては、大前提として右肩上がりを描いています。それが成り立つには、暗号資産業界に継続的な資金流入の仕組みがとても大事です。その意味でETFは極めて低コストで流動性が高く、売り買いしやすいために、現在、金融の世界で発明された商品の中で、最も使い勝手がよいものになっています。

 ETFとは何かを考えます。運用の世界で運用のバイブルといわれている、1970年代に書かれた、『敗者のゲーム』の著者であるチャールズ・エリスは、私たちにとって神様のような人です。彼がつくったコネチカット州のグリニッジアソシエイツという会社があります。機関投資家にせよ、富裕層にせよ、どのようなアセットクラスや運用戦略に、どの程度資産を配分するかについて、資産コンサルタントや年金コンサルタントに意見を求めます。グリニッジアソシエイツにフィデリティが発注して、2019年から毎年定点観測している、デジタルアセットサーベイの最新のものが昨年前半に行われて、昨年の第4クオーターに出版されました。

・・・

 ポイントは、現物ETFがゲームチェンジャーになるという議論がどれほどのマグニチュードになるのかということです。参考の数字を挙げます。
 北米で新しい金融商品が出る際は、まずカナダで2、3年実験して問題を洗い出してから米国でも実施するというパターンが多いです。現物ETFは既にカナダで運用中ですが、それが出たときに
は、最初の数日で3000億円ほどが入ってきました。その後、流動性に少し問題があり、大きなディスカウントになったグレースケールのファンドには約2兆円が入っています。今週、SECに対して出た判決によって、GBTCのクローズエンドファンドになっています。このディスカウントが一気に半分になったほどのインパクトがありました。ですから、ブラックロックのETFが出れば、少なくともカナダよりは大きいはずです。使い勝手を考えても、GBTCを超えることが十分あり得ます。

 ここからは多くの前提条件を置いた予想と期待です。これらの動きが出た場合の、日本の投資家の参加可能性として三つを挙げていますが、いずれも現在の法律下ではできず、若干の改正が必要になります。理論的な可能性ですが、まず米国で出されたETFを外国証券や外国投信として、SBIや楽天、マネックスなどのオンライン証券で、米国時間にドルで買うのが最も簡単な方法です。

 ②は、ブラックロックなどの米国のETF会社がファンドに円のシェアクラスをつくって、東証に上場するものです。多くのルール変更が必要ですが、日本の投資家は東京時間に円建てで直接買えることになります。
 ③はハードルが最も高いですが、特に日本の暗号資産業界にとっては非常に大きな意味を持ちます。①と②では現物のカストディーはコインベースになるので資産の所在は米国ですが、③では全てを日本でコントロールできます。日本の投資家にとって最も望ましいです。日本でETFをつくる可能性はあり、業界としてこれを目指すべきです。
口座数で見た対象市場規模です。ダブルカウントやトリプルカウントはあるものの、直近の口座数は740万件です。また、FXもこの1、2年の為替相場の動きで1000万件を超えました。NISAアカウントは本年3月時点で1200万件、証券口座は3000万件です。暗号資産取引所での取引参加者は700万から800万ですが、ETFになれば、NISAや証券会社の参加者数程度になる可能性は十分にあります。つまり、現在の数倍になる可能性があります。
 これは多くの前提条件の下での計算ですが、今、暗号資産取引所に口座のある人と証券会社でSMAやラップサービスを受けている人の金融資産は10倍を超え、100倍以上もあり得ます。これが③と④になった場合の想定市場規模は数十倍から数百倍になる可能性があります。

 

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第二部 :
『パネルディスカッション』

中川 晴氏 :株式会社大和ファンド・コンサルティング 専務取締役
津留 智浩氏 :野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社(NFRC)CIOマネジメント部 シニアコンサルタント

 (モデレーター)坂口 誠氏 : (前掲)

 

(坂口)
 続いて、本日のゲストの、中川様と津留様にお話を伺います。現在、大和グループと野村グループでは、直接また間接に、日本の個人資産2000兆円の半分か、それ以上をコントロールしていますが、彼らはそのゲートキーパーとして、どのアセットクラスに幾ら投資すべきかをアドバイスをする立場にいます。2人には自己紹介と現職の紹介を簡単にしていただきたいと思います。

(中川)
 大和ファンド・コンサルティングの中川です。私は1988年、昭和63年のバブル経済末期に旧三井信託銀行に入行しています。長年、年金を中心とした外国株式運用のファンドマネジャーでしたが、1994年から1995年に米国へ留学した際に坂口さんと同級生として出会いました。
 1999年から2004年の6年間、ニューヨークでも勤務し、米国株式の運用やアナリストをしていました。2006年に大和ファンド・コンサルティングに移り、以来、日本の企業年金を中心とする、伝統的資産である国内株式と外株からオルタナ資産までを広く扱うファンドアナリストをしています。資産運用業界で35年働く中で、多くの市場変化やイベントに伴ってアセットクラスが出たり、なくなったりするのを間近で見てきました。これが私の経歴です。アジア危機、9.11、リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など、イベントでの痛い思い出も踏まえて本日はお話しします。暗号資産については素人なので、逆に教えていただきたいです。
 大和ファンド・コンサルティングは2006年設立の、大和証券グループの100%子会社で、以前は大和総研の一部門でした。図にあるように主に三つのビジネスがあります。1994年からある年金運用コンサルティングが最も古いです。二つ目がファンド・オブ・ファンズの投資助言です。当社はファンドラップという商品に力を入れており、私はそのマネジャー選定、アセットアロケーションなどの担当です。
 投資一任ビジネスでは、オルタナティブのゲートキーパーとして、ヘッジファンドからプライベートアセットまでのサービスを提供しています。この三つのビジネスはいずれもファンド評価に関わっており、ファンドアナリストが何名もいます。そこをセントラルリサーチと呼んでおり、伝統的資産からオルタナティブ資産まで扱っています。多くのマネジャーにインタビューして定性評価し、レーティングし、推奨などの評価をします。

 本日は年金運用コンサルティングについて詳しく説明します。ざっくり話すと、日本の年金市場は公的年金と私的年金の二つに分かれます。公的年金は巨大なGPIFが約200兆円の資産を運用しており、その他にも公的年金があるという構図です。
 私的年金では、黄緑色の私的年金、DB企業年金について、大和ファンド・コンサルティングでは多くの顧客を持っています。これも残高資産額83兆円で、非常に大きな市場です。DBの確定給付という面では、企業の基金や人事でしていることもありますが、人が少ないので、コンサルタントを雇って資産のアロケーションやファンドの選定に際してアドバイスを求めています。大和ファンド・コンサルティングでは、このような仕事をしています。
 津留さんのNFRCも同業ですが、R&I、みずほ、海外のラッセル、マーサー、タワーズなど、大手である七つのコンサルタントが日本に存在し、公的年金や企業年金のコンサルタントサービスを行っています。
 大和ファンド・コンサルティングでは企業年金中心のコンサルティングをしています。そこでは、運用コンサルタントが年金基金にアドバイスしますが、その際にファンドの評価を行っています。簡単な自己紹介と大和ファンド・コンサルティングの紹介でした。今回は年金基金に焦点を絞って議論したいと思います。以上です。

(坂口)
 次は津留さんにお願いします。

(津留)
 野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング(NFRC)の津留です。本日はパネリストとして参加させていただき、ありがとうございます。この勉強会で、ドッグイヤー的に刻々と変化する暗号資産、デジタルアセットについて、参考になる話が出来たら幸いです。
 先に当社の紹介をします。NFRCは、2021年12月に、旧NFRT、野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジーと野村證券のフィデューシャリー・マネジメント部が統合して設立された会社です。顧客への資産運用アドバイスの強化を目的として統合されました。2023年2月にRussell/Nomuraインデックス、NOMURA-BPIインデックスなどを算出しているインデックス業務室を野村證券から事業継承して自社に統合しています。
 NFRCには、スライドにありますように1から6のビジネスセグメントがあります。6番目のインデックスビジネスが最後に入ったものです。私の所属は、2番目のCIOサービスで、大和さんとはライバルでありますが、野村證券で取り扱っているファンドラップやSMA、エグゼクティブラップ、NomuraNavigationなどに対して投資助言のサービスを提供しています。私はCIOサービスで、主にマネジャーセレクションというファンドを選ぶ業務を担当しています。
 私の略歴紹介ですが、私は1996年に院卒で野村證券に入社しました。最初の約5年は自己勘定部門のディーラーをしてました。2001年に日本でETFができた頃はディーラーでした。(ご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんが)実は1995年には日経300上場投信が上場しています。新人だったのでメインではなくサブでしたが、日経300上場投信のマーケット・メークを当時していました。バスケット・トレードのディーラーだったときは、日本の機関投資家から日本株のアクティブ・リバランスなどの引き合いを受けて、値段を出すというポジション・トレーダーとしてマーケット・メークをしていました。

 革新的だったのは、1997年の立会外取引の導入があったことです。ランチタイムにバスケットの引き合いを受けて値段を出します。ランチタイムは価格が止まりますが、前場の引け値を基準に値段を出します。その約定を、場を通さず立会外で約定出来るようになったのです。寄り前の前日終値でバスケットの値段を出せと言われても、ニュースなど未消化なので、寄りはどうなるか分かりません。昼休みには消化されて、値段がこなれてくるので、アクティブ・リバランスをするという顧客が大半でした。今とは違い、データキャパシティーとかの問題もあり、プリンシパル取引を選好されることが多く、その値段を出していました。
 私が入社した平成8年には、橋本政権下で日本版金融ビッグバンの話が出ていて、日本版金融ビッグバンで世の中が変わるという大変なことになっていました。入社したてで当時、詳しくは理解できていませんでしたが、良い経験でした。
 その後、プログラム・トレーディングのトレーダー、クオンツ・リサーチ・セールス、アルゴ・トレーディングのセールスなどを、日本と米国で担当していました。
 NSI(米国野村證券)時代に顧客だった坂口さんには、当時とてもお世話になりました。私が米国にいたのは、2004年から2009年の初めで、リーマン・ショック前後になります。クオンツ・ショック(パリバ・ショック)、リーマン・ショックも経験して、野村證券は米国以外のリーマン・ブラザーズの事業継承をしましたが、元リーマン・ブラザーズの米国の、プログラム・トレーディングの半分くらいの人たちがニューヨークの野村證券に移ってきています。リーマン・ショックがあり、リーマン・ブラザーズの米国以外を事業継承すると発表された週に、自分のボスがリーマン・ブラザーズから移って来た人に、突然、代わりました。リーマン・ショックの時の経験は貴重です。
 その後、帰国して企業年金連合会(PFA)や野村信託銀行に出向し、外部委託運用のポートフォリオマネジャーやアカウントマネジャーをしました。2021年12月からNFRCのCIOマネジメント部で現職をしています。

・・・

(司会)
 ありがとうございました。非常に参考になりました。最後にコメントがあればいただきたいと思いますが、いかがですか。

(津留)
 ノーベル賞を取ったロバート・マートン先生が言うように、金融サービス業が他の業界と異なる大きな要素は信頼(トラスト)です。トラストがあるので、消費者は(無形の)金融サービスを受け入れます。ですから、新ビジネスの場合、石橋をたたいて渡るとスピードは落ちますが、信頼は一度失われると、取り戻すのは大変なので、マートン先生の言うように、ValueAddedにするためにはトラストが重要です。チャレンジは好きです。信頼を勝ち得ながら新しいチャレンジをしたいです。

(中川)
 津留さんの言うトラストです。年金も多くの経験をしていますが、一度信頼を失うと、年金基金も保守的になり、私たちコンサルタントやファンドアナリストも少し引いてしまいます。一つ一つの積み上げが重要です。啓発や情報開示もお願いしたいです。
 現時点で、私たちの所には暗号資産の紹介はそれほどないので、その話も受けながら理解を深め、業界全体を盛り上げたいと思います。

(司会)
 中川様、ありがとうございます。坂口さんにまとめていただきます。今後、業界ですべきことがあれば、あらためて発言してください。

(坂口)
 金融のメインストリームで認めてもらうためのロードマップを金融部会のメンバーの英知を集めて、大至急作りたいと思います。協力をお願いします。

(幸 専務理事)
 坂口様、中川様、津留様、本日はありがとうございました。話を聞いて昔のことを思い出しました。私が米国から帰国したときに、いろいろ頼まれてマネージドヒューチャーズファンド、ヘッジファンドをしたり、その後にゲートキーバーをしたりしたのが、80年代後半から90年代の前半でした。日本で認知されたのが2004年か2005年頃なので、15年から20年かかっています。
 その頃、一番思っていたのは、年金は野村や日生に任せているなどというのが非常に多いということでした。日本ではアセットマネジメント会社も、失敗したら自分の責任になるというサラリーマン体質が多いと感じます。それも含めて、日本はコンサバで時間がかかると思っています。今、暗号資産は利益が出るからだけではなく、技術的な革新や世界のムーブメントも応援してくれています。しかし、やはり業界の人間が暗号資産に対する認知度をもっと高めることが必要です。ETFにするために、税金問題などのクリアすべき問題に関して、業界を挙げて頑張ります。野村様、大和様、今後ともよろしくお願いします。

(司会)
 中川様、津留様、坂口様、長時間、ありがとうございました。本日いただいた紹介資料が会員に展開可能かをあらためて確認し、会員の皆さまにお知らせします。
 最後までご視聴いただき、誠にありがとうございました。8 月の勉強会は以上で終了です。皆さま、ありがとうございました。

(一同)
 ありがとうございました。

 

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