「地方創生×RWAトークン」─Web3.0で巻き起こす地域社会の価値共創
JCBA広報チームがお届けするインタビューシリーズ。
今回は、ユースケース部会部会長の保木健次氏に取材を行いました。Web3.0の発展とともに注目を集めている「RWA(Real World Asset)トークン」。ガイドラインも公表され、その活用はデジタル領域にとどまらず、地方創生や地域経済の活性化にも広がりを見せています。RWAトークンをどのように利活用し、社会実装していくのか──JCBAで直近に公表した『RWAトークンの利活用に関するガイドライン』やユースケース部会の取り組みを通じて、その課題と可能性をお伝えします。

インタビュー目次
RWAトークン活用の課題は「認知と制度の壁」
近年、伝統金融や不動産、美術品などの従来のアセット分野でも注目されているRWAトークンですが、その利活用にはどのような課題があるのでしょうか?
RWAトークンの利活用が注目される一方で、課題は少なくありません。特に大きな障壁となっているのが、一般ユーザーの認知度や事業者における決裁権限者の理解の不足です。まだまだ一般ユーザーのRWAトークンに係る認知度は低く前提となるウォレット保有者も多くありません。また、事業者内の決裁権限者のRWAトークン・NFTやウォレットなどの関連技術について、基本的な理解がまだまだ乏しい現状では、事業者が導入を具体的に検討する段階にすら進めないこともあります。
また、現行法制度との整合性の確保も大きな課題です。トークンの保有や移転をトークンに紐づく現実資産の所有権やその移転と法的に確実にすることが難しく、セカンダリーマーケットがプラットフォーム内などの限定的な範囲にとどまっているのが現状です。さらに、ウォレットの使い勝手やRWAトークンの保管・売買の仕組みも発展途上であり、ユーザー視点での改善が急務となっています。
こういった認知度の不足が、積極的にRWAトークンを開発する事業者の増加を抑え、魅力的なRWAトークンの不足が一般ユーザーの「顧客体験の不足」となり、認知度や理解が進まないという段階にあると思います。
「今までできなかったビジネスが、RWAトークンがあればできるようになる」という認識が広がれば、大手企業がもっと積極的に参入するのではないでしょうか。まだ大手企業が参入する市場規模にはなっておらず、「ニワトリが先か、卵が先か」というのが現状です。RWAトークンのユースケースを増やす地道な活動が不可欠で、キラーコンテンツが生まれれば普及が加速する可能性もあります。時間とタイミングの問題です。
ガイドラインがもたらす可能性の種
JCBAから『RWAトークンの利活用に関するガイドライン』が公表され、保木さんはこの取りまとめに関わっておられますが、ガイドラインが定まることでどのような変化が生じると思いますか?
ガイドラインは、これまでの課題を受けてトークン発行や運用における法的論点を整理し、先行事業者の知見をまとめたものです。明文化された指針があることで、事業者にとって法的リスクの見通しが立ちやすくなり、新たなプレイヤーの参入を後押しすると期待しています。
とくに地方創生など、これまでWeb3分野に距離を感じていた事業者や地域金融機関、地方自治体の方々にとっては、自らの活動へのRWAトークンの活用可能性を見出すきっかけにもなるのではないでしょうか。ビジネスや地方創生として継続し成立させるためには、こうしたガイドラインの活用が大きな助けになると思います。「この市場でなにかできないか?」と気づき、可能性を感じてくださると嬉しいですね。
RWAトークン活用の際に注意すべき点
RWAトークンを活用する際、注意すべき点にはどんなことがあるでしょうか?
事業者がまず重視すべきなのは、「トークンと紐づく資産の魅力」です。トークン自体は技術的に簡単に発行できますが、それが実際に価値あるものとして取引されるためには、魅力的な現実資産と結びついていることが不可欠です。また、その資産に関する所有権やその移転を法的に確実にするための整備も必要になります。
加えて、一般ユーザーが安心して利用できるように、ウォレットの利便性や取引のしやすさといったユーザビリティにも配慮が求められます。トークンビジネスの成功には、技術・法務・デザイン・マーケティングといった多面的な視点が必要となるため、外部の専門家との連携も重要です。さらに、中長期的にはセカンダリーマーケットの整備や、業界全体でのエコシステム構築が求められます。
「RWAトークンを発行すれば話題になる」ということではなく、RWAトークンは、あくまでも手段です。紐づける資産の魅力がなければ、顧客を増やすことはできません。顧客の体験価値を高め、徐々にでも顧客・ファンを増やすことが市場規模の拡大につながり、やがてRWAトークンを当たり前に使っている状況ができ、セカンダリーマーケットを含めたエコシステムの構築へとつながっていくのだと思います。
エコシステムの観点でさらに申し上げると、自社の商品・サービスを提供するだけだと、セカンダリーマーケットに参加するユーザー数は限られます。セカンダリーマーケットを大きくするということは、自社だけでは限界があります。たとえばショッピングモールの場合、「ショッピングモールを運営する人」と「ショッピングモールに出店する人」の両者が揃ってこそ集客ができるわけです。RWAトークンにも同じことが言え、RWAトークンを発行する人だけでなく、インフラを担う人が必要です。個社のプラットフォームが集客したユーザーだけのセカンダリーマーケットだと業界全体が発展しませんので、複数のプラットフォームで取引できるインフラ整備が流通市場の発展につながると思います。
ユースケース部会の活動と地方創生
ユースケース部会の活動についても、ぜひ教えてください。
ユースケース部会は、暗号資産が投機的というマイナスイメージばかりだった時期に、そうではなく有用な仕組みであるということを、多くのユースケースを提示することを通じて知ってもらおうとしたことがきっかけで立ち上げました。
これまでに第一弾では暗号資産のユースケースを取り上げ、報告書を取りまとめて公表しました。
第二弾では地方創生DAO、NFTをテーマに取り上げ、山古志など各地での取り組みについてディスカッションし、地方創生DAO構築のガイドラインをつくりました。また、JCBAとして地方創生案件支援の公募をし、佐渡島でのNFTコンテストの取組みを支援したり、対馬でのDAO組成を支援するなど、一定の成果があったと思います。
JCBAには、法律家やエンジニア、Web3.0事業会社など多彩な専門家が集まっていますので、今後も知見を活用しながら良い取り組みができると考えています。こうした取り組みが、今後の地方創生とWeb3.0活用のモデルケースになってくれればと思います。
地方創生×RWAトークンの新たな経済圏
Web3.0はそもそも国境という概念が希薄ですから、観光など国境を越えた活動と相性が良いですね。
地方には魅力的な特産品や名所があります。特産品をRWAトークンとして効率的に域外へ販売し、Web3.0の国境を越える特性を活かせば、宿泊券や入場券などをRWAトークンとしてインバウンド向けに販売することもできます。
宿泊券や特産品を小口化した利用権としてRWAトークン化することで、利用者が手軽に入手・譲渡できるようになり、流通性が高まります。これにより、地域外の住民を巻き込んだ経済活動が容易にできます。RWAトークンを起点に、地域と世界をつなぐ新たな経済圏の形成が期待できるのではないでしょうか。
地方には、まだまだ知られざる特産品や名所があります。そこでしか得られないものや体験があれば、RWAトークンを活用することでそれを稼ぐ力に変えることができると思います。外から呼び込む力と、外に売り出す力。その両輪がしっかり回ることで、地域経済の成長・発展に貢献できれば、RWAトークンの存在意義も増し、広く利活用されるようになります。地方創生とRWAトークンは、やはり相性が良いのではないでしょうか。
また、生活したりなにかを購入するには決済が欠かせませんので、決済トークンも重要になってきます。決済トークンを地域金融機関が発行することで、ブロックチェーンで完結するエコシステムの構築が容易になります。
実際には居住しなくも、地域のデジタル住民となることで、中には愛着をもって定期的に訪れてくれる人が現れ、やがては本当に移住してくれるかもしれません。
地方銀行や信用金庫、信用組合などの地域金融機関の方々にもWeb3.0のもつ可能性を知っていただき、RWAトークンを活かした地域支援も検討いただけたらと思います。伝統的な金融と最新の技術が融合することで新たな地域支援のモデルが生まれる、今後、異業種連携が地方創生の大きな力になると考えています。

保木 健次氏
KPMGジャパン Web3.0推進支援部 部長
JCBAユースケース部会 部会長
国内外の金融機関にてファンドマネジメント業務等を経験した後、2003年に金融庁に入庁。証券取引等監視委員会特別調査課、米国商品先物取引委員会(CFTC)、金融庁総務企画局市場課、経済協力開発機構(OECD)、金融庁総務企画局総務課国際室にて勤務。2014年にあずさ監査法人入所。Fintech/Web3.0関連アドバイザリーの責任者として、暗号資産交換業、金融サービス仲介業及び電子決済等代行業を含むFinTech関連規制対応やセキュリティトークン、ステーブルコイン及びDAO(分散型自律組織)を含むWeb3.0推進支援等のアドバイザリー業務に従事。QUICK仮想通貨ベンチマーク研究会事務局や日本暗号資産ビジネス協会のアドバイザーやユースケース部会長、カストディ部会長など業界の発展にも貢献。