HOMEインタビュー「暗号資産の『金商法移行』と『分離課税化』 歴史的転換点を迎えた2025年の総括と、Web3事業参入に向けた新たな規制環境」

「暗号資産の『金商法移行』と『分離課税化』 歴史的転換点を迎えた2025年の総括と、Web3事業参入に向けた新たな規制環境」

当協会は2025年12月26日、「暗号資産業界 年末総決算スペシャル! ~1年の振り返りと今後の展望~」を開催。約100名の方々が集結し、悲願の分離課税や仲介業創設など激動の2025年を総括しました。2026年に向けた課題と展望を共有した、熱気あるイベントの模様をレポートします。

8年ぶりの大改革「資金決済法から金融商品取引法への移行」

2025年12月26日に開催された当協会の勉強会&懇親会で、最大のトピックとなったのは暗号資産の規制体系が従来の「資金決済法」から「金融商品取引法(金商法)」へと移行することの歴史的意義です。廣末紀之会長(ビットバンク株式会社 代表取締役社長CEO)は開会の挨拶で、2017年の資金決済法による定義以来、実に8年ぶりとなるこの大改革を「業界の歴史に記録される出来事」と表現しました。この移行の背景には、暗号資産を単なる決済手段としてだけでなく、国民の資産形成に資する資産として位置付け直すという政府・金融庁の意図があります。

これまで暗号資産は、法律上は決済手段としての側面が強調されてきましたが、実態としては投資対象としての側面が強く、法的な位置付けと実態の乖離が課題となっていました。今回の金商法への移行は、暗号資産を伝統的な金融商品(株式や投資信託など)と同様の枠組みで扱うことを意味し、これによりETF(上場投資信託)の組成や、既存金融機関の参入障壁が下がるなどのポジティブな展望が開けました。しかし同時に、金融商品としての厳格な規律が求められることになり、業界にとっては「新たな階段」を登るための通過儀礼とも言える厳しい局面を迎えています。

パネルディスカッションでは、白石陽介副会長(MZ Web3 Fund General Partner)や河合健氏(AMTパートナー)、斎藤岳氏(株式会社pafin 代表取締役 Co-CEO)により、この移行議論が2024年の夏頃から急浮上した経緯が語られました。当初は唐突感のあった金商法化ですが、アメリカでのビットコイン現物ETF承認などの外的要因も後押しとなり、「税制改正(分離課税)を実現するためには、金商法という厳格な規制の枠組みに入れることが不可欠である」というロジックが成立しました。つまり金商法への移行は、本来的には別の議論であるはずの税制改正とセットで進められた側面も持ち合わせているのです。このセクションでは、業界が直面するこのパラダイムシフトが、単なる法改正以上の意味、暗号資産が社会的に「国民経済に資する新たなアセットクラス」として認められるための最終段階に入ったことを示唆しています。

6年越しの悲願「申告分離課税の実現までの苦難と意義」

本勉強会で会場が最も熱量を帯びた瞬間は、暗号資産取引における課税方式が、従来の「総合課税(最大税率55%)」から「申告分離課税(一律約20%)」への変更が記載された税制改正大綱が閣議決定されたという報告でした。税制検討部会・部会長を務める斎藤岳氏は、2019年から毎年要望を出し続け、6年越しでようやく実現に至った苦難の道のりを振り返りました。

転機となったのは、2022年から2023年にかけてのWeb3推進の機運と、法人税制の改正プロセスでの信頼醸成でした。さらに決定的だったのは、前述の金商法への移行議論です。「金商法上の金融商品として扱うならば、税制も他の株式等の金融商品と同様に分離課税とするのが整合的である」というロジックが通り、一気に議論が進展しました。これまでの資金決済法下では、「決済手段になぜ投資減税のような優遇措置を与えるのか」という反論を覆すことが困難でしたが、土俵が金商法に移ったことで、長年の膠着状態が打破されたのです。

ただし、この分離課税の適用には条件が付く見込みです。すべての暗号資産が無条件で対象になるわけではなく、「金融商品として適切に管理されているもの(交換業者で扱われているもの等)」や「資産形成に資するもの」といった枠組みが設定される可能性があります。今後は、分離課税の対象範囲をどこまで広げられるか、デリバティブ取引やステーキング報酬などをどう扱うかといった細部の制度設計が焦点となります。6年間のロビイング活動の集大成としての成果を喜びつつも、実務レベルでの適用開始に向けた新たな調整フェーズに入ったことが共有されました。

厳格化するコンプライアンス

分離課税化の実現が進む一方で、業界に課される規制強化は非常に重いものとなります。パネルディスカッションでは、特にセキュリティ対策と投資家保護の観点から、交換業者(VASP)に求められる責任の重さが強調されました。河合健氏からは、ハッキング被害等に備えた「履行保証金(責任準備金)」の積み立て義務に関する議論が紹介されました。これは、万が一交換業者がハッキングされた際、顧客資産を補償するための資金をあらかじめ確保しておくというものです。その金額規模については、暗号資産のハッキングに関する被害額を踏まえると莫大にもなりえますが、実務上、対応が可能且つ投資家保護に資する水準を議論していく必要があります。

また、インサイダー取引規制(不公正取引規制)の導入も大きな論点です。株式市場であれば証券取引所が一元的に監視を行いますが、暗号資産は世界中で24時間取引され、発行体も分散しているケースが多いため、誰がインサイダーで、何が重要事実に該当するのかを定義すること自体が極めて困難です。この点について、金融庁と業界の間で会議が重ねられ、実効性のあるルール作りへの模索が続いています。

新たな参入障壁と参入機会

Web3領域への事業参入を検討する企業にとって、注目すべき近年の法改正の一つが「仲介業」の創設でしょう。これまでの規制下では、暗号資産を取り扱うビジネスを行うには、極めて取得難易度の高い「暗号資産交換業」のライセンスが必要でした。しかし、今回の改正議論の中で、交換業者(カストディ機能を持つ重厚な規制対象)とは別に、顧客と交換業者を繋ぐ役割や、特定のトークンを取り次ぐ役割を担う、より軽量なライセンス形態としての「仲介業」等の新設が検討されています。

本勉強会でも、この新制度がWeb3ゲーム会社や、トークンを活用したサービスを展開したい一般事業会社にとっての福音となる可能性が示唆されました。例えば、自社ゲーム内でトークンを発行・流通させたい場合、これまでは自ら交換業ライセンスを取るか、既存の取引所に上場依頼をする必要がありましたが、仲介業の枠組みを使えば、より柔軟なビジネス設計が可能になるかもしれません。現在、当協会の「web3事業ルール検討タスクフォース」において、この仲介業に関するパブリックコメントの準備や勉強会の企画が進められています。

しかし、懸念点も残ります。金商法への移行に伴い、この「仲介業」に対しても、証券仲介業並みのコンプライアンス態勢が求められる可能性があるからです。もし参入障壁が高くなりすぎれば、本来の「Web3の社会実装」を阻害することになりかねません。白石氏は、「交換業者(VASP)ではないWeb3関連企業が、実態に即したルールを求めて声を上げることが重要」と強調しました。規制の詳細は2026年にかけて詰められる予定であり、これから参入を検討する企業にとっては、このルール形成のプロセスに関与し、自社のビジネスモデルが実現可能な法制度となるよう働きかけることが、事業成功の鍵を握ることになります。

健全な市場発展に向けた官民連携の重要性

イベントの総括として語られたのは、2025年以降の業界の展望と、当協会としての決意です。2025年は「金商法移行」「分離課税」「仲介業創設」という大きな枠組みが決まった年であり、続く2026年はそれらの詳細なルール(政省令やガイドライン)を策定し、実務に落とし込んでいく「実行の年」となります。廣末会長は、「規制強化による痛みは避けられないが、これを乗り越えた先に、既存金融との融合やETFなどの新たな事業機会が待っている」と前向きなメッセージを発信しました。

当協会は会員企業・団体様に向けて、新制度に対応するための勉強会やガイドライン策定をより一層強化していく方針です。特に、新たに規制対象となる可能性のあるDeFi(分散型金融)やDAO(分散型自律組織)、NFT関連事業者などが、意図せず違法状態にならないよう、適切な情報提供とサポートを行うとしています。最後に廣末会長は、「これからは交換業者だけでなく、Web3に関わる全てのプレイヤーが声を上げ、実態に即した健全な市場を作っていく必要がある」と締めくくりました。