NFTビジネスに関するガイドライン

NFTビジネスに関するガイドライン

初 版【令和3年4月26日 策定】

第2版【令和4年3月31日 改訂】




目次

1. はじめに:本ガイドラインの目的

2. NFTのユースケース

2-1. ブロックチェーンゲーム

3. NFTの法的性質

3-1. NFTの法規制に係る検討フローチャート
3-2. NFTと利益分配
3-3. NFTの決済手段性


4. 賭博

4-1. 概要
4-2. 留意が必要なケース
  4-2-1. NFTサービス一般について
  4-2-2. NFTを利用したゲームについて


5. 景表法

5-1. 概要
5-2. 景品類の定義
5-3. 留意が必要なケース
  5-3-1. NFTサービス一般について


6. 匿名性とプライバシー

7. セキュリティ

8. ユーザー保護

9. 新規NFTの取扱い

10. NFTを発行・取り扱う事業者が留意すべき点

10-1. NFTを発行する事業者が留意すべき点
10-2. NFTを取り扱う事業者が留意すべき点






1. はじめに:本ガイドラインの目的

 本ガイドラインは、当協会に加盟する会員企業がノンファンジブルトークン(以下、NFT)に関連する事業へ参入することを促進し、かつ、会員企業によるNFT関連サービスの適正かつ円滑な運営を通じ、ユーザーにとって安心・安全な利用環境を提供することにより、健全な市場育成や充実した商品やサービスの選択肢拡充のベースになることを目的としております。

 本ガイドラインに賛同する会員企業は、自己が提供するNFT関連サービスにおいて、本ガイドライン及び関係法令を遵守するものといたします。

 またNFTの利用は、今後業界・業種を問わず様々な分野に広がっていくことが予想されるため、当協会は、業界内外の関連する団体や官公庁との間で建設的な議論を継続的に行い、NFTに対する認識を共有し理解を深めるとともに、業界や市場の変化に応じて、随時本ガイドラインの見直しを行っていくものといたします。


2. NFTのユースケース

2-1. ブロックチェーンゲーム

 NFT関連サービスには様々なものが存在し、今後も分野を問わず拡大することが予想されます。他方で、現時点では、ブロックチェーンゲームと呼ばれる分野での活用が目立ち、本ガイドラインの一部記載も、ブロックチェーンゲームを念頭に置いたものとなっています。そこで、理解の前提とするため、ブロックチェーンゲームの概要を整理します。

 ブロックチェーンゲームとは、一言でいえばブロックチェーン技術を活用したゲームです。例えば、ゲーム内で使用できるアイテムがブロックチェーン上のNFTとして発行され、個々のサービス内ではなくブロックチェーン上で取引できるような仕組みが採用されているものが典型的です。

 従来のゲームでは、ゲーム内のアイテムはゲームを離れては存在し得ないものであり、その「保有」関係自体があまり意識されないものでしたが、サービスによっては、運営会社に属することが明確に利用規約等で規定されています。一方、ブロックチェーンゲームにおいては、NFTはユーザーに属するものであると明示的に定められ、寧ろその点がアピールされる形でサービス提供されていることが特徴的です。

上記で述べたアイテムを例にとりますと、下記のように比較することができます。




3. NFTの法的性質

3-1. NFTの法規制に係る検討フローチャート

 NFTを利用した事業やサービスを運営するにあたっては、その対象となるNFTが資金決済法、金融商品取引法等の規制対象に該当しないかを個別具体的に検討する必要があります。当該検討の結果、当該NFTが規制対象となる場合、各法令に基づき必要な届出や登録等の手続を行う必要があります。

 本章では、NFTやNFTに係る取引等がその対象となり得る典型的な法規制対象(有価証券、前払式支払手段、暗号資産、為替取引)に焦点を当て、各規制対象に係る検討の方向性を、下記フローチャート(図1)として整理しました。



 なお、上述のとおり、このフローチャートは各会員企業における検討の一助とすることを目的にあくまでご参考としてお示しするものです。そのため、当協会として、上記フローチャートを根拠としてNFTの法的性質が決定されることを保証するものではありません。対象となるNFTがいかなる法的性質を有するかについては、当該NFTの性質・仕組み・用途、当該NFTを利用する事業やサービスの内容等を踏まえ、法令や監督官庁が公表するガイドライン等に照らして、各会員企業にて個別具体的に検討していただく必要があります。その場合、各社において、必要に応じて弁護士等の専門家に照会することもご検討ください。


3-2. NFTと利益分配

 NFTがその保有により何らかの経済的利益を得られるような性質・仕組みを有する場合、金融商品取引法上の有価証券に該当する可能性があるため、留意する必要があります。

 例えば、NFTの保有により当該NFTの発行体等の事業収益の一部が分配される仕組みを有するNFTについては、いわゆる集団投資スキーム持分をトークン化したものとして「電子記録移転権利」に該当し、金融商品取引法上の規制対象となる可能性があります。仮に当該規制対象となる場合、そのようなNFTの発行や取扱いについては、発行者への開示規制や、一定の取引関与者への登録規制・行為規制といった規制が適用されることとなります。


3-3. NFTの決済手段性

 対象となるNFTが、決済手段等の経済的機能を有するような場合、類型的に、前払式支払手段、暗号資産又は為替取引の該当性について検討を要するケースが多いと考えられます

 この点、NFTの決済手段性については様々な議論がありますが、例えば、NFTの暗号資産該当性の検討において、それぞれが固有の値を有する非代替性トークンというNFTの技術的な性質上、一般的には決済手段等の経済的機能を有しているとは言い難い場合が多いと考えられます。

 もっとも、NFTの技術的性質から直ちに決済手段性が否定されるわけではなく、当該NFTの性質・仕組み・用途、当該NFTを利用する事業やサービスの内容等を踏まえ個別具体的な検討を要する点に留意が必要です。例えば、日本銀行券(一万円札など)には通し番号がある点では個別性があるといえますが、通常はそれによって個々のお札は区別されず、決済手段として一律に用いられています。このように、個性はあるもののその違いが捨象されて、日本銀行券のように他の商品・サービス等との交換や価値の移動に使われる実態が存在する場合(又はそのような実態が事後に生じるような場合)には、決済手段等の経済的機能を有していると評価される可能性があります。


4. 賭博

4-1. 概要

 NFTをサービス上取り扱う際、以下の構成要件を満たす場合には、賭博罪(刑法第185条、第186条)に該当する可能性があります。


① 偶然の勝敗により
② 財産上の利益の
③ 得喪を争うこと
④ 失われ得る財産上の利益が一時の娯楽に供するものでないこと


4-2. 留意が必要なケース

 4-2-1. NFTサービス一般について

 特定の権利や価値をNFTとして提供すること自体は賭博には該当しません。なぜなら、サービスの仕様上、第三者との間でNFTを有償で譲渡できる場合でも、NFTの獲得に何らかの偶然性があって(①)、かつ財産上の利益の得喪を争うような状況(③)がなければ、賭博罪の構成要件を満たさないためです。


 4-2-2. NFTを利用したゲームについて

 NFTは通常、財産的価値を有すると考えられるため、NFTを利用したゲーム(以下、NFTゲーム)では、サービス設計によっては賭博該当性に留意すべき場合があります。各会員企業にて弁護士等の専門家に照会する等して、適法性を確保したサービス設計となるようご留意ください。
 特に留意を要するケースとして、パッケージ販売やガチャの手法を用いてNFTを販売する場合、こうした手法ではNFTの獲得に偶然性があるのが通常であることを考慮しますと、販売者と購入者との間や購入者と他の購入者との間で財産上の利益の得喪を争う関係(②・③)が認められるかを検討すべきこととなります。その判断のためには、サービス形態に応じた個別具体的な検討が必要ですが、例えば、販売者は自らが設定した販売価格に相当する対価の支払いを受けることとなりますので、購入者において、その販売価格に応じたNFTを獲得していると評価できる事情があれば、当該サービスは購入者が販売者との間で財産上の利益の得喪を争うものではないと整理しうると考えられます。

 
参考資料:
「NFTのランダム型販売に関するガイドライン」:https://cryptocurrency-association.org/cms2017/wp-content/uploads/2022/10/GuidelinesforRandomizedNFTSales.pdf  

5. 景表法

5-1. 概要

 不当景品類及び不当表示防止法(以下、景表法)では、事業者が過大な景品類を提供することにより消費者がそれに惑わされて質の良くないものや割高なものを買わされてしまうといった不利益を被ることがないよう、景品類の最高額、総額等を規制し、一般消費者の利益を保護するとともに、過大な景品類による不健全な競争を防止しています。

 NFTの発行のみによって景表法に抵触する可能性は低いものの、NFTの配布及び販売やNFTを活用したサービスを提供する際には留意が必要です。


5-2. 景品類の定義

景表法上の「景品類」とは、


① 顧客を誘引するための手段として
② 事業者が自己の供給する商品・サービスの取引に付随して提供する
③ 物品、金銭その他の経済上の利益


を指します。


5-3. 留意が必要なケース

 5-3-1. NFTサービス一般について

 景表法に基づく景品類規制には、(1)一般懸賞に関するもの、(2)共同懸賞に関するもの、(3)総付景品に関するものがあり、それぞれ、提供できる景品類の限度額等が定められているため*1、景品の提供を行う場合にはこれら限度額等に留意する必要があります。

 この点、NFTはブロックチェーン上で自由に取引が行われることや代替不可能性を有することから、その価格算出方法及びプロセス等の検討に留意が必要であると考えられます。

 なお、NFTがサービス利用に伴う報酬としてユーザーに付与されるものであって、取引付随性が排除される場合には、そもそも景品類に該当しない可能性もあります。このように、景品類規制の該当性判断にあたっては多くの点を考慮する必要があり、判断が難しい場合があることに注意してください。



*1:消費者庁「景品規制の概要」:https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/premium_regulation/


6. 匿名性とプライバシー

 ブロックチェーン上で発行され流通する暗号資産については、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)やテロ資金供与規制(CFT)の観点から匿名性に関する議論が行われ、金融活動作業部会(FATF)の勧告を踏まえ各国で法整備が行われるなど、国際協調的な対策が進められています。NFT自体を対象とするAML規制は現在のところ存在しないものの、デジタルアートやゲームアイテムを始めとする一部のNFTは高額で取引されており、AML等の観点から取り扱いにおける匿名性については注意が必要です。

 その一方で、NFTは固有性の高いトークンであるため、NFTを活用したサービスの提供を行うにあたり、プライバシーの観点から所有情報を含むユーザーの個人情報は一般に対して一定の非公開性を有することが望ましい場合があると考えられます。そのような場合、事業者には、ユーザーに対してマネー・ローンダリングを含む違法・不適当な利用を禁止した上でサービス提供を行うことが求められます。


7. セキュリティ

 NFTはそのトランザクション履歴を含む代替不可能性から、盗難や紛失が発生した場合に、ユーザーに対して保証等を行うことが困難となる場合があると想定されます。事業者が提供するサービスにおいてユーザーからNFTを預かる場合には、当該NFTが暗号資産に該当しない限り、資金決済法上の暗号資産管理業務(カストディ業務)には該当しないものの、管理におけるセキュリティ体制の強化及び盗難・紛失の発生時の対応については広くユーザーに告知を行うことが望ましいと考えられます。特にNFTを保管するウォレットの秘密鍵等の管理体制や、NFTの移転取引を取り扱う場合における社内体制の整備などを行うことが望ましいと考えられます。


8. ユーザー保護

 NFTはブロックチェーン上で発行されるトークンであるため、当該NFTを活用したサービスが終了した場合であっても、当該ユーザーによる購入情報等の記録はブロックチェーン上に存在し続けます。しかしながら、サービス設計上、例えば以下のような可能性がある場合には、当該サービスの利用規約に予めその可能性を考慮した説明を記載するなどして、NFTの販売時にユーザーが当該リスクを認識できるよう周知を行うなど、ユーザー保護の観点から慎重な検討が必要であると考えられます。


  1. (1) NFTがもっぱら活用されていたサービスや、NFT保有者に対する特典を提供していたサービスの終了によって、当該NFTが実質的に無価値化してしまう可能性
  2. (2)NFT販売プラットフォーム事業者の消滅によって、NFT保有者が当該プラットフォームを通じて得ていたコンテンツの利用許諾が無効化してしまう可能性
 

9. 新規NFTの取扱い

 会員企業は、取り扱おうとするNFTの性質・仕組み・用途に鑑み、例えば、次のいずれかに該当すると認められる場合には、当該NFTの発行や取扱いについて慎重に判断する必要があります。


  1. (1)法令若しくは公序良俗に違反している、又は第三者の権利(著作権その他の知的財産権を含みます。)・利益を侵害している、又はそれらのおそれが高いNFT
  2. (2)犯罪に利用されている又は利用されるおそれが高いNFT
  3. (3)マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用されている又は利用されるおそれが高いNFT
 

10. NFTを発行・取り扱う事業者が留意すべき点

10-1. NFTを発行する事業者が留意すべき点

 NFTを発行する事業者は、NFT及びNFTと結びつけられる商品・役務の法的性質を、民法、商法、知的財産法(著作権法、特許法、商標法)等の法律に照らして十分に分析した上で、意図するNFTを発行するためにはどのような法的な手当が適切なのかを、個別具体的に検討すべきであることに留意が必要です。


 例えば、画像、動画、音楽等のいわゆるデジタルコンテンツと結びついたNFTを発行する場合、NFTとデジタルコンテンツは、いずれも所有権の対象となる物理的な「モノ」ではないため、民法上の所有権は発生しないと考えられます(民法85条、民法206条)。

 他方でデジタルコンテンツには、多くの場合、著作権法の保護対象である「創作的な表現」として著作権等の権利が発生しています(著作権法2条1項)。そして、デジタルコンテンツを利用したNFTを発行する際には、当該デジタルコンテンツのウェブサーバーへの複製・配信を伴うケースが一般的であり、そのようなNFTは、著作権者自身で発行するか、著作権者からライセンスを受けて発行する必要があります。なお、NFTを発行・販売するからといっても、それだけでは、NFTに利用したデジタルコンテンツを再利用する権利がライセンスされたり、著作権自体が譲渡されたりすることにはなりません。そうしたライセンスや権利譲渡を伴う取引となるのは、通常は購入者との間の契約・利用規約等でその旨の定めがある場合に限られます。
 したがって、デジタルコンテンツと結びついたNFTを発行する場合には、①購入者との契約・利用規約等を通じてライセンスや譲渡の対象となる権利内容を適切に設計すること、②デジタルコンテンツの著作権等の権利を適切に処理すること等の手当てを検討することが重要となります。
 ただし、これはあくまで一例ですので、意図するNFTを発行するためには、個々のビジネスに即した十分な分析を行い、目的に沿った適切な手当てを具体的に検討する必要がある点に留意が必要です。


10-2. NFTを取り扱う事業者が留意すべき点

 NFTを取り扱うプラットフォーム等を運営する事業者は、取引対象の権利内容や意図する利用形態が具体的に特定されているかを確認し、「利用許諾契約」「プラットフォーム利用規約」等を通じて、関係者の利害を踏まえた取引ルールを設定することが重要となります。また、プラットフォーム内での取引についてのルール設定と、プラットフォームをまたいだ取引が発生する場合に適用されるルールが異なりうることも考慮する必要があります。

 例えば、画像、動画、音楽等のいわゆるデジタルコンテンツを利用したNFTを取り扱う場合、以下の点に留意する必要があります。


  • 取引対象の法的性質(デジタルコンテンツに係る著作権等の法律上の権利それ自体か、当該権利等に基づく許諾を受けデジタルコンテンツを一定の方法で利用できる契約上の地位か等)
  • 取引の具体的な内容(NFTの購入者は何をすることができ、何をしてはならないのか、NFT購入者が享受できるベネフィットの前提としてユーザーが知るべき重要な事項がないか等)
  • 取引に関するルール(NFTの二次取引、NFT取得者への条件の承継、IPホルダーへのロイヤリティ支払い、無権限発行NFTや権利侵害NFTへの対応、プラットフォームを超えたNFT取引の可否、ブロックチェーンへの取引記録のタイミングその他トークンや取引履歴の取扱いに関してユーザーが知るべき重要な事項がないか等)