『“松下村塾3.0”とは!?シンガポールに集まる日本人のWeb3起業家の実態について』
『DAOを巡る法的問題について』

カリキュラム及び概要

  • 日時:2022年7月28日(木) 17:00〜19:00
  • 場所:オンライン配信
  • 第一部(講演) 17:00〜18:00 : 『“松下村塾3.0”とは!?シンガポールに集まる日本人のWeb3起業家の実態について
    (講演概要)
    日本人のWeb3起業家は何故シンガポールに結集し始めているのか?1990年代~2000年代前半のWeb1企業(HPなどで一方的な情報発信が中心)の聖地は“ビットバレー”と称された「渋谷」、その後、今なお世界を席巻しているGAFAMを中心とするWeb2企業(データ管理のプラットフォームを持つ)の聖地は「六本木」であった。そして今、Web3企業の聖地は、日本ではなく、もはや「シンガポール」になりつつある。本講演では、その実態について、2018年8月にシンガポールで創業し、Web3エンタメ企業として、世界No.1を目指しているDEA(Digital Entertainment Asset)社のFounder & CEOの吉田直人が裏話含めてお話させていただきます。

    第二部(講演) 18:00〜19:00 : 『DAOを巡る法的問題について
    (講演概要)
    web3時代の新しい組織運営の形として注目されているDecentralized Autonomous Organization(DAO又は自律分散型組織)について、その機能や仕組みについて既存の団体・組織との本質的な違いを探りつつ、主として法的な観点から、DAOやその構成員の位置付けや責任関係について検討いたします。

    ■ 講演者
    第一部
    吉田 直人氏 : DEA Founder&CEO

     

    第二部
    殿村 桂司氏 : 長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士

 

第一部 :
『“松下村塾3.0”とは!?シンガポールに集まる日本人のWeb3起業家の実態について』

吉田 直人氏 : DEA Founder&CEO
 

(吉田)
 デジタルエンターテインメントアセット社の吉田です。私は2018年8月にシンガポールで会社を設立し、2019年にシンガポールに移住してゲームの事業を始めました。今回、ご縁がありまして、こちらの日本暗号資産ビジネス協会に入会させていただくこととなり、皆さんとお話ししたときに、シンガポールに日本人のWeb3起業家が大量に移住しているということはうわさでは聞いているけれども、実態としてよく分かっていないとのお話をいただきました。そこで、今どのような状況になっているかをお伝えしたいと考えています。
 今、日本人のWeb3起業家がこちらにたくさん来ているということで、日経新聞やNHKなどが取材に来ています。

(取材動画投影)

 進出支援をしている知り合いの方に聞いたところ、現時点で60社ぐらいあり、把握していないものを入れると、もっと多いのではないかと思います。今日、明後日に到着する方もいらっしゃり、今年の春あたりから加速している状況です。
 2018年当時、われわれが出た頃は、シンガポールに移住する起業家は非常に少なかったです。どちらかというと、暗号資産の購入で収益が出たので、税金の問題でシンガポールに来たという方が多く、われわれのように事業を展開する方は、当時まだ非常に少なかったです。増えた理由の一つは、昨年からAstarNetworkの渡辺創太君などがさまざまなことをメディアで伝えたというところが多分大きいかと思います。彼がシンガポールを拠点にしているのも大きかったのではないかと思います。それからもう一つ、昨年大きな動きがあったのがGameFiです。私が行っている事業もまさにそうですが、そこで月間で数百億円という規模の会社が出てきたのも大きいかと思っています。
 そのような企業を目指し、トークンを発行して、それで経済圏を伴いながらゲームを作るという事業をしようとすると、残念ながら日本では障害がたくさんあります。GameFiに限らず、トークンを発行して経済圏をつくりながら事業を展開するとなると、現状まだ日本では難しく、さまざまな障害が多い状況です。そこを乗り越えるためのさまざまな努力が必要であるならば、既にシンガポールにはたくさん起業家が来ていますので、こちらで事業をしたほうがいいのではないかというスタートアップの皆さんの判断だと思います。日本で事業をできなくて悶々としているよりは、できる環境で苦労したほうが起業家としては圧倒的に健全です。これから年末にかけて、もしかしたら100社ぐらいになるのではないか、そのような勢いを感じています。

 インターネット初期の頃は、サンフランシスコ周辺、シリコンバレーが一つの集積地として有名になりました。日本であれば、渋谷に集まっていたことから、ビットバレーといわれていました。今はこれだけインターネットが世界中に広がっていますので、Web3に関してはどこが集積地かという話ではないと私は思っていたのですが、残念ながら日本ではやりづらいために、日本人の起業家が今、大量に日本からシンガポールに来ている状況です。まさに今、シンガポールはサムライWeb3アイランドのような感じで、日本人経営者の多くのWeb3企業が、これから存在感を増してくるのではないかと考えています。
 今までは、シンガポールのWeb3においては、どちらかというと金融系のサービスが多かったのですが、そこにわれわれのようなマンガやゲーム、アニメなどがどんどん進出してきていることも、面白い現象ではないかと思っています。どこかの国の人がこれだけまとまって移住することはあまりありません。Web3の事業をするために、ある国の人が大量に移住してくるのは、現地においても非常に面白い現象として捉えられている、そのように私は感じています。

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 これはわれわれの今期の売上着地見込みです。今期は75Mシンガポールドルでの着地を見込んでいます。Web3の事業が、概念ではなく実際に実業として売り上げ、利益を上げている、このあたりの情報も日本の起業家の方たちに非常に大きく影響を与えているのではないかと最近思っています。このようなスピードで成長しているのは、世界マーケットであることもありますが、それ以上にトークン経済圏を伴うWeb3事業の成長速度が非常に速いことも実感しています。これは他社の事例でも実感しています。GameFiにおいては、昨年はAxieInfinity、今年になるとSTEPNが、非常に大きな収益を上げています。そのようなところも、若手の起業家の皆さんが挑戦してみようということで、シンガポールに来ている大きな理由ではないかと考えています。

 われわれは、もともと海外で事業をしたかったわけではありません。本当は日本で行いたかったのですが、大変難しいためにこちらに来ました。できれば、今後続く方たちが日本でできるような環境になるのがいいのではないかと思っています。それから、来てしまったからには、こちらでの環境をつくらなければいけませんので、シンガポール政府との関係の構築は絶対にしなければいけないだろうと思っています。そのような形で、われわれで橋渡しのようなことができたらいいと考えています。

 トークンの期末時価評価の問題がもしクリアになったとしても、日本で事業を展開できるのは、多分スタートアップの方だけになってしまうのではないかと危惧しています。上場企業が日本でWeb3事業を行おうとした場合に、監査法人とのやりとりの問題が必ず出てくると思います。会計基準が明確でない点は監査法人1社だけではなかなか解決できません。中には、シンガポールに子会社をつくろうしたけれども、やはり監査法人との問題で、子会社を断念して全く別資本でつくるという会社の話も聞いています。これは日本にとっては非常に大きな問題ではないかと思います。大手企業もぜひWeb3業界に参入して事業展開をしていただきたいと私は思っています。Web3の事業は、別にスタートアップだけのものではありません。大手企業がどんどん入ってくることによって、日本におけるWeb3事業の信頼性、安心安全、そのようなことがどんどん向上していくのではないかと思っています。世界的に見てもそうだと思います。私の友人である上場企業経営者の方で、Web3事業ができない状況で悩んでいらっしゃる方も5~6名いらっしゃいます。ぜひ日本のために、環境の整備を皆さんと一緒にできないかと最近非常に強く思っている次第です。講演は以上となります。

 

 

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第二部 :
『DAOを巡る法的問題について』

殿村 桂司氏 : 長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士
 

(殿村)
 弁護士の殿村と申します。簡単に自己紹介をさせていただきます。長島・大野・常松法律事務所という東京の弁護士事務所でパートナー弁護士をしています。私は、法律用語でいうTMT分野、テクノロジー、メディア、テレコムの分野を中心に、M&Aや知財管理の取引、テクノロジー関連法務全般など、フィンテックも含めて扱ってきています。今年の1月から3月ぐらいまで自民党の、NFTホワイトペーパーのプロジェクトチームのワーキングメンバーとして稼働していて、その関係でDAOについても検討する機会をいただき、われわれの事務所で出しているテクノロジー法ニュースレターの中で、DAOについて触れたニュースレターを出しました。

 きょう参加されている方で、DAOを聞いたことがない方はおられないとは思いますが、念のため復習をしておきます。DecentralizedAutonomousOrganization、日本語にすると分散型自律組織、もしくは自律分散型組織、両方の訳語が当てられることがあるかと思います。Web3時代における新しい組織運営として、非常に注目されているもので、ビットコインやイーサリアムから始まり、DeFiの分野で広く活用されてきた経緯があります。そういったWeb3サービスを提供する主体だけではなく、さまざまなプロジェクトへ適用することができるのではないか、という期待も高まっているところです。例えば、地方創生や社会課題の解決、何か新しいコンテンツを生み出していく、もしくはスポーツの分野での、団体のマネジメントなど、さまざまな分野でこのDAOが使えるのではないかという議論がなされているところです。
 ただ、そのようにユースケースが広がれば広がるほど、一口にDAOといってもこういうものですというものがなかなか定まらないのが現状ではないかと思います。以前からの、DeFiの分野等で議論されているまさにDAOというものから、何となくステークホルダーを意思決定の過程に取り込んで皆で決めていく、そういったDAOのコンセプトを取り入れた仕組みをDAO、いわゆるDAO的な組織をDAOであると呼んでいることもあります。従って、DAOと聞いたときに、その中身、実態が何なのかをしっかり見極めることが大事ではないかと思っています。
 さまざまな有用性が指摘されているDAOですが、そのコミュニティーマネジメントをどうするのかという問題、セキュリティーの問題、きょう主に触れようと思っている、法的な不確実性の問題があります。また、従前から議論されているトークンにまつわる課税関係が課題として挙げられています。きょうは時間も限られていますので、法的課題というところで、法的な不確実性のあたりをメインに触れていきたいと思います。

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 この権利能力なき社団は、法律に基づいているものではないこともあり、非常にフレキシビリティーが高いといえます。責任財産は、構成員全員が総有していることになり、総有財産となります。ですから、株主の有限責任は一定程度確保できることになります。社団の内部規則を柔軟に定めることができますので、DAOのニーズ、DAOの性質とは比較的整合的ではないかといわれています。ただ、やはりここも収益事業を実施する場合は、社団で課税がかかりますので、二重課税の問題は完全には回避できないといわれています。ただ、構成員に持ち分、つまり会社でいうところの株式のようなものが認められていないこともあって、この権利能力なき社団が仮にガバナンストークンを出したときに、そのトークンがどのような性質のものになるのかは、不明確性が残ることはあると思っています。

 そのように、権利能力なき社団も一つの候補になり得るのではないかと考えられますが、法律に基づいているものではないので、その意味での安定性はやはり欠いているところがあると思います。その究極的な例としては、自分たちとしては権利能力なき社団だと思っていても、それが最終的に裁判所等で否定されてしまったときに、民法上の組合とされてしまい、構成員の無限責任となりますから、それは非常に問題になって、やはりリスクは残ります。それを解決する方法として、例えばDAOであれば、権利能力なき社団としての要件が認められ得る可能性が高いようなガイドライン等を作っていくのが、一つ方向性としてあるのではないかと思います。
 また、法人格がないために、例えば不動産の登記などの財産登記を団体名ですることはできないというデメリットもあります。これも、例えば登記をするための法人、合同会社を別に設立して、それをメンバーとして取り入れ、そのメンバーのガバナンストークンでの投票結果に従って登記を行うことを義務付けていくなど、何か解消する手だてはあるのではないかと思っています。

 DAOの法形式を選択する際の考慮事項の一つとして、トークンの法的性質決定に影響があるという話、そしてなぜトークンの法的性質が重要かについて、課税関係に影響するという話と、金融規制の適用有無が変わってくるという話をしました。きょうはもう時間がないので、詳細には入りませんが、先ほどの権利能力なき社団のようなものがトークンを発行したときに、それがどう扱われるのかについて、金融商品取引法上の集団投資スキーム持ち分に当たる可能性があります。これに当たると電子記録移転権利、いわゆる金融規制がかかってくる可能性があります。そうすると、発行に際して、何か許認可が必要となる、また一定数以上の人への募集をするときに届出書を出す、開示規制がかかるなど、重い規制がかかってくる可能性がある点に注意が必要です。ただ、ここも事実上例外条件がありますので、この例外に当たるようにトークンの権利の内容やDAOの運用を工夫するなど、例外を活用する道もあり得るかと思っています。

 最後に、海外の法制度、議論の状況について少し触れておきたいと思います。現在の日本では、税務上の問題や法的な不明確性があるために、DAOを組織するときにオフショアで設立するケースが多いと認識しています。

 米国では、ワイオミング州が典型的ですが、LLCという米国の法制度を活用し、それを少し手直しすることで、DAOをLLCとして法人格の付与を認める方向性の議論がなされています。また、a16zが公表したホワイトペーパーで非常に詳細な分析がなされていて、DAOの目的、DAOが行っている事業の内容に応じて、このようなDAOであれば、アメリカであればこのような法形式が良いとサジェスチョンをしています。DAOの法形式を考えるときに、DAOといえば絶対にこれという法形式は日本にはないので、それぞれのDAOの目的、運用状況に応じて、適切な法形式を選んでいくことになりますから、その観点からは、このホワイトペーパーのアプローチは非常に参考になるのではないかと思います。

 

 

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