『イノベーションと両立しうるCrypto法制の一考察』
『暗号資産と会計処理の現在地ーICOトークンの発行の考え方』

カリキュラム及び概要

  • 日時:2022年11月29日(月) 17:00〜19:00
  • 場所:オンライン配信
  • 第一部(講演) 17:00〜18:00 : 『イノベーションと両立しうるCrypto法制の一考察
    (講演概要)
    (米国SECのPeirce委員(通称Crypto Mom)の2021年「Token Safe Harbor2.0」提案を参考に、日本においてイノベーティブなCrypto法制度の可能性を検討する。)
    昨今のステーブルコインTerra プロジェクトの崩壊、FTX取引所の破産申請を受け、Crypto業界が逆風にさらされる中、Cryptoに対する規制はどうあるべきでしょうか?日本の暗号資産規制の評価をV20の会場で感じた海外の視点を交えてお伝えします。さらに、暗号資産交換業の登録制度開始前後からCrypto業界のコンプラに身を置く中で感じた自身の経験に基づく課題感とそれを突破するために何が考えられるのか、米国の動きを参考にしながら考えてみます。

    第二部(講演・パネル) 18:00〜19:00 : 『暗号資産と会計処理の現在地ーICOトークンの発行の考え方
    (講演概要)
    日本は2018年3月、暗号資産の「保有者」に係る会計上の取り扱いについて、世界に先駆け整備しました。そして本年3月、企業会計基準員会から、ICOトークン発行に係る会計上の取り扱い等に係る論点整理が公表され、残論点であった「発行者」側の会計処理の議論が進むことが期待されております。今回は、暗号資産に係る会計処理の現在の整備状況を確認するととに、ICOトークンの発行に係る会計処理の考え方を示すとともに、法律的な知見もお借りしながら議論を深めることができたらと考えます。

    ■ 講演者
    第一部
    平下 美帆氏 : 株式会社Crypto Garage 統制本部・Chief Legal and Compliance Officer

     

    第二部
    齊藤 洸氏 : 有限責任監査法人トーマツ ディレクター/公認会計士
    増島 雅和氏 : 森・濱田松本法律事務所 パートナー
    竹ケ原 圭吾氏 : コインチェック株式会社 常務執行役員

 

第一部 :
『イノベーションと両立しうるCrypto法制の一考察』

(米国SECのPeirce委員(通称Crypto Mom)の2021年「Token Safe Harbor2.0」提案を参考に、日本においてイノベーティブなCrypto法制度の可能性を検討する。)
平下 美帆氏 : 株式会社Crypto Garage 統制本部・Chief Legal and Compliance Officer

 

(平下)
 皆さん、こんにちは。CryptoGarageの平下です。私は、2002年に弁護士登録をして、金融庁で金融商品取引法の法改正に携わり、その後税務のことに少し携わりつつ、法律事務所にも勤務しまして、2017年から暗号資産交換業界にいます。現在はベンチャー企業であるCryptoGarageで法務とコンプライアンスを担当しています。
 本日の内容である日本法については資格を保有しているので正確なお話ができるよう用意しております。アメリカのお話をさせていただきますがその点については資格を保有しておりませんので、一般人として情報を収集し理解した内容をお話いたします。正確な内容をお知りになりたい場合は現地の弁護士から聞いていただくようお願いいたします。

 きょうは、まず皆さんの関心が高いと思われるFTXの破産申請について、どのように整理をしていくのかをお話しします。また、日本の暗号資産関連の法制度から見て、どのようなことがいえるのか、日本の法制の総括をします。今月中旬、V20でインドネシアに行き、各国のかたがたとお話ししました。そのときに感じた日本の法制についての感触も少しお話しします。その後、今の環境の中で何かイノベーションを促進する考え方はできないのか、というお話をいたします。今日のお話の中では米SECのCommisionerのHesterM.Peirce氏が昨年公表した提案、「tokensafeharborinitiative2.0」の内容を軽く紹介し、日本においてセーフハーバーのような枠組みが出来ないのか、その課題についてお話いたします。Tokensafeharborについては森・濱田松本法律事務所の増田雅史先生が翻訳をされており、日証協さんでも研究されているので詳しくはそちらをご参照ください。

 早速、FTXの話に入ります。FTXは11月11日にアメリカの破産法制であるChapter11の申し立てを行っています。申し立て権者はFTXのUSのエンティティーだけかをひも解いていくと、実はメインになっているのはFTXTradingLtdを中心に、サム・バンクマンフリード氏が支配している全てのエンティティーになっています。驚くことに、FTXジャパンも破産債務者として、アメリカのデラウェアの破産裁判所に申し立てを行っていることになっていました。FTXジャパンの社長が、アメリカの破産裁判所への申し立てに合意しているのではなく、FTXのUSエンティティーの新しいCEOが、日本でいうところの法人格否認の法理を適用して、全て支配下にあるとして、全世界のあるあらゆる関係法人をデラウェアの破産裁判所に申し立てをしている状態です。

 これは、これだけ複雑にさまざまな法人を駆使して、サム・バンクマンフリード氏の帝国ができているので、これら全てについて全世界で債権債務関係の整理をしないと、債権者が望んでいる真相究明にならない、公正な財産の処分にならないという意味で評価はできるのかもしれません。しかし、日本の破産法の考え方からすると、FTXジャパンの破産裁判所の管轄は日本にあるのか、日本の破産裁判所とアメリカの破産裁判所の、どちらの判断が正しいのか、という議論になりかねません。日本の金融庁がFTXジャパンに対して業務改善命令を出し、日本の顧客の資産を保全するよう命令が出ていますが、こちらとも競合し得る話です。
 破産裁判所に出ているバランスシートは、ConsolidatedAsset、ConsolidatedLiabilityとなっていて、連結ベースです。これが破産裁判所に挙がっている全エンティティーです。四つのグループ分けをしていて、紫色のFTXTradingの下に日本のエンティティーがあります。この紫色のグループの、連結の財務諸表、債権債務が破産裁判所に挙がっている状態になっています。では、Chapter11のデラウェアの裁判所がもし日本の資産についても紫色の企業団全体の債権債務の資産として評価し換価処分しなさいとなったときに、日本の顧客の資産は本当に大丈夫なのかが疑問に残ります。金融庁は、FTXジャパンを一生懸命守ってはいますが、Chapter11の裁判所の命令と、日本の金融庁の命令がもし食い違ってしまったときに、このFTXジャパンの判断権者は誰なのか、誰が判断をしていくのかがよく分かりません。

・・・

 これを実装するために、今サンドボックス制度がどうなっているかを軽く紹介させていただくと、サンドボックス制度は実はあります。弊社でも挑戦しました。これは内閣官房が定めた制度です。まず、内閣官房に事前相談に行って、内閣官房がバックアップしてくれて金融庁と交渉します。実証実験の計画をして、1年くらい実証実験をします。それでフィードバックをもらって商用化となります。
 これはこれで、制度として非常に新しい発想で、とても意義があります。しかしこれをもっと広く使ってもらうためには、という観点で見ると、Cryptoの業界の人たちがしたいことは、個社1社で内閣官房の門をたたいて、金融庁に何かさせてもらうような土壌ではありません。業界全体として集団で使えるサンドボックスの入り口はないのか、特例措置を求めたいのは金融庁だけではなく、法務省の民事局へはトークンの対抗要件、法務省刑事局へは賭博該当性、会計基準を明確化して欲しい、税制優遇を求めたいなど、様々な要望があります。そのため、主務官庁を一つに特定せず、あらゆるところを巻き込めるような入り口を作ってもらえないかと思います。
 また、今のサンドボックス制度は、内閣官房が入り口になって各関係省庁のドアをたたいていく制度なので目的が広過ぎ、産業競争力の強化に特化してしまっているので、少し使いづらいです。Crypto特有の課題にミートする必要があるので、ここを何とかできたらいいと思います。資金調達を解決したいため、実弾として消費者にトークンを触れていただくことが出来るサンドボックスが求められます。

 規制緩和のための対立する価値観との、調整の仕方の、私なりのアイデアです。消費者保護のところで、消費者教育、保護基金を創設して被害を救済する、それからKYCのところも非常に大事なのは重々理解していますが、これを一ベンチャーにさせるには無理があります。これをどこかシンジケートで行う仕組みはできないのか、資金調達したいベンチャーがいる場合に、一定程度上限を設けて持たせてあげることは考えられないのか、顧客の資産に被害が出ないように、サンドボックス上のカストディーを用意する議論はできないか、フィージビリティーがあるかというところを皆さんに聞いてみたいと思います。
 このようなことを検討して、本当にサンドボックスができれば、Web3のプロジェクトの話も非常にスムーズに行くでしょう。沈んでいる業界の中で、明るい話題が提供できるのではと思いました。

 この提案を受けて変化があることを願っています。以上です。

 

 

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第二部 :
『暗号資産と会計処理の現在地ーICOトークンの発行の考え方』


齊藤 洸氏 : 有限責任監査法人トーマツ ディレクター/公認会計士
増島 雅和氏 : 森・濱田松本法律事務所 パートナー
竹ケ原 圭吾氏 : コインチェック株式会社 常務執行役員

 

(齊藤)
 よろしくお願いします。きょうは、今の整備状況、ICOトークンの論点整理が今年の3月に出ましたので、それに対するコメントの紹介、事例の紹介、海外情報、最後は私見を交えて、ICOトークンの考え方についてお話しします。

 まず、日本の会計基準の整備状況です。このグリーンのところが会計に関するところです。2018年の3月にASBJの実務対応報告38号として、暗号資産の時価評価、暗号資産交換業者のオンバランスなど、とても重要なところの指針が世界に先駆けて出ました。2019年にはICOトークンに関して、会計基準を設定するASBJという主体に新規テーマとして取り扱えないかという提案がされて、そこから2022年の3月にセキュリティートークン、ICOトークンの会計処理の論点整理が出ました。8月には電子決算手段、日本版ステーブルコインのところが新規テーマになって、これが今月もASBJで審議しています。

 これは暗号資産を保有しているところに関しての会計処理です。38号では自己が発行した暗号資産については対象外とされています。一番上の認識のところに関しては、交換業者が顧客から預かったものをバランスシートに載せるかということで、これは載せるという結論になっています。保有しているものは、約定日で認識します。測定に関して、これは期末の時価評価ということで、現状は活発な市場がある暗号資産であれば、時価評価して損益処理をする内容になっています。活発な市場がない場合には、取得原価評価ですが、時価が下がっている場合には損失処理をするとなっています。
 これは法人税の税務で、基本的には税務と会計が揃っていて含み損益を含めて課税されます。

 これはECRAGが2020年に出した暗号資産の論点整理の一部を引用しています。トークンのタクソノミー(分類)に関する整理です。

 こちらは全体を示したもので、発行体が左で、保有者がいます。トークンの発行体と保有者、それぞれについての会計処理を検討していくことになっています。プロダクト的にはこのトークン、暗号資産で、電子記録移転有価証券権利等がセキュリティートークンで金商法の有価証券に対応するものです。そしてステーブルコインとNFTが一般的かと思います。
 発行者における会計論点の例と書いてあります。ここに書いてあるところが、論点整理でいわれているところです。これは後ほどまた出てきます。保有者に関しては暗号資産、セキュリティートークンに関して整備されています。

・・・

(司会)
 では、パネルディスカッションに入ります。モデレーターは引き続き齊藤様にお願いします。パネリストとして、森・濱田松本法律事務所の増島先生、コインチェック株式会社の竹ケ原様、よろしくお願いします。

(齊藤)
 最初に発行の論点です。発行のところで、JCBAさんも発行の定義を詰めなければいけないと意見されております。ここの部分に対しては、法曹の観点からも違和感がたくさんあるという認識ですか。

(増島)
 いわゆる暗号資産における生成、ミンティングについて、まだ発行されていないという整理を、多分法律の人たちはするはずです。税のほうでも議論しており、電子船荷証券が既にあって、これもまさに作成と発行という形で書いています。ミンティングに相当するのが作成で、発行は相手に渡ったときに発行という言い方をしていて、これは非常に自然な考え方です。それと同じように考えると、自社発行で保有しているものはまだ発行していない、このような議論はできます。
 市場に出ているものが戻ってきたものをどのように評価するのかは、ここからは答えは出ません。一度発行されたものが戻ってきたら、発行されてないことになるというロジックは、有価証券法には存在していません。発行はなされた状態のものということです。一度出て行っているものか、戻ってきたものかは、明確に分けた議論をしなければいけないというのが、有価証券的な発想をもしトークンに展開するのだとすると、論理的な帰結になってしまうという感じです。

(齊藤)
 JVCEAの、ICO規則に発行の定義があります。生成と移転で利用者のところまで行くことが発行と定義しています。会計も基本的にはそれを踏襲すればいいと思います。竹ケ原さん、いかがですか。

(竹ケ原)
 私もこのICOの会計処理のところは、メタップスさんなどが出ていたのは2017年でしょうか、非常に興味深く当時の有価証券報告書を拝見させていただいていました。監査報告書にも、強調事項の点が書かれていて、非常に先進的で、中の監査チームのかたがたは非常によくやっていただいたと思います。そこからICOの会計基準の議論は、私たちはこの3年4年の間に進めたのかというところですが、私は今回のこの齊藤さんの資料を拝見して、間違いなく進んだと確信しました。この資料はパブリックにオープンにされる予定はあるのですか。これは議論が進む非常にいい資料なので、ぜひパブリックに上げてほしいと思います。事業者的な視点からいくと、私たちが昨年HashPaletteさんのIEOをした際に、それと同時期に新規暗号資産に関する規則という形で、IEOに関する業法的なところ、あくまで自主規制規則ではありますが、それを一緒に整備しました。この資金使途は、ディスクロージャーの制度そのものであれば、多分証券とそれほど変わらないくらいのディスクロージャーになっていると思われます。当然資金使途も出て、四半期に1回の報告と、資金使途が変更になったときには、適時開示をしなければならないとなっていて、非常に細かくなっています。かつ、ICOのプロセスも、基本的には証券のIPOと似たような審査基準で、きちんと行っており、これらの資金使途を明確化するガバナンスの土壌がある程度あります。会計としてジャッジする上でも、その基になるガバナンスの土台も含めて、利用しやすいと思います。

(齊藤)
 考え方として強調したいのは、基本的に事業計画を立てて、それが即収益になって対等になるというのはどうなのかということです。債権者と株主の利害調整が会計の目的の一つでもあります。増島先生、法的なところでいうとどうですか。

・・・

(増島)
 DAOにおけるトークンは、ガバナンストークンという言い方をしますが、ある意味コミュニティー通貨のような位置付けになります。そのときのDAOがもしエンティティーになっていれば、DAOエンティティーは何をしているかというと、基本的には中央銀行と同じようなことをしています。コミュニティーの中で使われている通貨の安定を図ること、そしてコミュニティーの成長です。コミュニティーの成長とは、要するにトークンを持つユーザーを増やす、ネットワークの拡大を実現することです。この二つを使命にした中央銀行がいる、このような状態になっているのが理念的な理解です。

 その状態に持って行ける程度にコミュニティー通貨が流通している状態を、どのようにつくるかが問われるのでしょう。日本は分かりやすく、交換所で流通を始める状態になっているときは、それは不特定の人たちが実際に売買や他の暗号資産と交換する状態になるという、一つのメルクマールになっているところはあります。その段階では少なくとも暗号資産に当たっていると皆が考えている、このような状態になります。
 きょうの話は、生トークンをそのまま売る話をしています。実際は、SAFTやトークンワラントで、上場前の段階ではそのような調達活動をしますが、いわゆるネットワークローンチ、日本でいうところのIEOに相当する状態になったときに、ある意味トークンが新生の暗号資産になったと、理念的にはそのように考えていくのだろうと思います。もちろんレギュラトリーな人々はその前は暗号資産ではないとは言わないので、暗号資産と仮置きをしないと危ないと。ただ不特定の人たちに利用、購入される状態はどのような状態かというと、端的には取引所で取引されたときになります。
 アメリカは複雑で、有価証券というところからスタートして、相応にディセントラライズをされた場合には、別のものになるかもしれないという言い方をしています。現状そのようになったと公に言っているのはビットコインだけです。イーサリアムですら、言葉を濁している状態です。状況は違うのだろうという感じはしていました。

(齊藤)
 はっきりしない状態ですね。
 質問が来ています。「発行したトークンを自家保有した場合、例えばガバナンストークンとして議決に加われるのであれば、機能を利用しているため、会計処理が必要となるのではないでしょうか。」とのことです。未発行であるが、その機能を利用している場合は必要という議論です。議決に加わった場合に認識をする、もう使ったのだから、ということです。その辺は、会計処理として、そのときに全部認識するほどのトリガーかどうかを丁寧に議論するべきかと思います。基本的に発行者、デベロッパーは、そういったコミュニティーから貢献をすることで報酬をもらう、自らの秘密鍵でトークンをもらう、このような場合は根拠があるわけなので、その場合は認識するということです。原因事実をその都度考える必要があります。ガバナンストークンの場合に全部認識するのかに関しては、考えなければいけないところです。竹ケ原さん、どうですか。

(竹ケ原)
 まだあまり実例がないところですが、会計で似たような他の事例もあるのかもしれません。作り出すために労力があまりかからなかったものの資産概念を満たすのかは悩ましいところです。数の議論もあります。経済的実態を考えたときに、収益という意味で生み出すほどのキャッシュ生成能力がないので、資産概念としては満たさないという考え方もあります。

(齊藤)
 行為がガバナンストークンの権利行使ですが、それは何のために行っているかまで考えないと駄目かと思います。自己処分権を自分で持っていて、それをいつでも売れるという状態に事実上なっているのであれば、自分のものといえると思いますが、そうではなく、コミュニティーのための代理行使のようなものであって、自分の将来のキャッシュフローにはねないものであれば資産計上されないという、若干きめ細やかな資産認識をする必要があります。

(司会)
 時間となってきました。最後に、第2部のまとめとして、齊藤さんから一言をお願いします。

(齊藤)
 この辺は少数説が正しいこともある世界であり、業界の知識、知見などを会計のほうに与えないといけない局面です。ここは一緒にできたらと思います。

(司会)
 本日はありがとうございました。

(一同)
 ありがとうございました。

 

 

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