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【勉強会レポート】暗号資産規制は金商法へ─金融商品取引法等改正案の全体像と実務への影響

暗号資産規制は、資金決済法から金融商品取引法へ大きく移行しようとしています。JCBAでは、改正案の全体像、情報公表規制、業規制、不公正取引規制、実務上の影響について、専門家による解説会を開催しました。

【2夜連続】暗号資産の重要な制度に関する解説会②〜第2夜 金融商品取引法等改正案の解説と実務への影響について〜
※こちらの勉強会は終了しております

暗号資産は「決済手段」から「投資対象」へ

2026年5月29日、JCBAは「【2夜連続】暗号資産の重要な制度に関する解説会②〜第2夜 金融商品取引法等改正案の解説と実務への影響について〜」を開催しました。

今回のテーマは、暗号資産規制の金融商品取引法(金商法)への移管です。これまで暗号資産は、主に決済手段として資金決済法のもとで規制されてきました。しかし近年、海外では暗号資産ETFが上場し、機関投資家からの資金流入も進んでいます。国内でも暗号資産の口座開設数は増加し、利用者の多くが長期的な値上がりを期待して保有するなど、暗号資産は実態として「投資対象」としての性格を強めています。

一方で、現行制度には課題もありました。無登録業者による詐欺的な投資勧誘、暗号資産現物に関する投資助言・運用への規制不足、発行時のホワイトペーパー等に関する情報提供の不十分さ、サイバー攻撃による流出事案、そしてインサイダー取引規制の未整備などです。

こうした背景から、2026年4月に金融商品取引法及び資金決済に関する法律の改正案が国会に提出されました。本勉強会では、JCBA副会長であり、暗号資産関連法の再点検プロジェクトを取りまとめてきた白石陽介氏の挨拶に続き、長瀬威志氏、佐野史明氏が、改正案の全体像と実務への影響を解説しました。

改正案の柱─情報公表、業規制、不公正取引規制

今回の改正案の大きな方向性は、暗号資産取引に関する規制を資金決済法から削除し、金商法に新設する形で移管することです。暗号資産は有価証券とは異なる「金融商品」として位置づけられ、暗号資産交換業者は「暗号資産取引業者」へと名称・制度枠組みが変更されます。

改正案の柱は大きく7つあります。

第一に、暗号資産の法的位置づけの転換。第二に、情報の非対称性を解消するための情報公表規制の整備。第三に、暗号資産取引業者に対する業規制の強化。第四に、暗号資産に関する投資助言・投資運用を、それぞれ投資助言業・投資運用業の対象に含めること。第五に、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業のうち、暗号資産仲介行為を金融商品仲介業へ移管すること。第六に、インサイダー取引規制を含む不公正取引規制の強化。第七に、無登録業者への対応強化です。

もっとも、すべてのデジタル資産が同じ規制を受けるわけではありません。セキュリティトークンは引き続き金商法上の有価証券として、ステーブルコインは電子決済手段として資金決済法の枠組みに残ります。今回の主対象は、いわゆる暗号資産です。 さらに暗号資産の中でも、発行者が存在する中央集権型の「特定暗号資産」と、ビットコインやETHのように発行者を観念しにくい非中央集権型の暗号資産では、情報公表規制のあり方が異なります。この分類は、今後の実務において極めて重要な論点になると考えられます。

※当日の資料より

情報公表規制がもたらす実務上の変化

改正案の大きな目玉の一つが、暗号資産に係る情報公表制度です。その目的は、発行者や専門家と一般投資家との間にある情報の非対称性を解消し、投資者保護を図ることにあります。

暗号資産には、ブロックチェーンやスマートコントラクトなど技術的・専門的な要素があります。一般投資家がコードの内容やホワイトペーパーの正確性を検証することは容易ではありません。また、中央集権型の暗号資産では、発行者や管理者が供給量、機能変更、プロトコル変更など、価値の源泉に関わる重要な意思決定を行える場合があります。さらに、大口保有者、いわゆる「クジラ」による売買が市場価格に大きな影響を与えることもあります。

こうした情報格差に対応するため、改正案では、特定暗号資産発行者による情報公表と、暗号資産取引業者による情報公表の2つの枠組みが整備されます。

特定暗号資産発行者が、50名以上を相手方として資金調達目的の募集・売出しを行う場合には、当該暗号資産に関する基本情報、募集・売出しに関する事項、発行者の業務・経理等に関する情報を公表する必要があります。有価証券の開示規制に類似する面はありますが、特定暗号資産では、情報公表後に直ちに勧誘が可能であり、事後届出が予定されているなど、制度設計には違いもあります。

また、募集・売出しを行った特定暗号資産発行者には、原則として定期的な情報公表義務や臨時情報の公表義務も課されます。虚偽情報の公表や情報未公表には、民事責任、課徴金、刑事罰などのエンフォースメントも整備される見込みです。

IEOを検討する事業者や、すでに暗号資産を取り扱う取引業者にとっては、情報の作成・確認・公表・更新のプロセスを、従来以上に厳格に整備する必要があります。リスティング審査や上場維持の実務にも影響が及ぶ可能性があります。

※当日の資料より

暗号資産取引業者に求められる体制整備

業規制の面では、資金決済法上の暗号資産交換業が、金商法上の「暗号資産取引業」へ移行します。売買・交換、媒介、管理といった従来の業務に加え、特定暗号資産の募集・売出しに係る勧誘・引受、暗号資産の借入業務なども規制対象に含まれることになります。これにより、暗号資産レンディングを行う事業者にも、登録や体制整備が求められる可能性があります。

また、暗号資産管理に関連するシステムを提供する事業者についても、「暗号資産管理関係業務提供者」として届出が必要になる方向です。カストディや取引所システムを外部委託している場合、委託先管理の水準も高まることが想定されます。パネルセッションでも、金融商品取引業者として求められるサイバーセキュリティ、冗長性、システム管理の水準に、Web3スタートアップや外部ベンダーがどのように対応していくかが論点として挙げられました。

さらに、責任準備金や自己資本規制、外務員規制も実務上大きなテーマです。暗号資産取引業者には、流出リスクに備えた責任準備金の積立が求められる見込みです。また、自己資本規制比率についても、これまで自主規制規則レベルで求められていたものが法律レベルへ格上げされることで、財務面の負担や管理体制への影響が生じる可能性があります。

一方で、今回の制度整備は、単なる規制強化にとどまりません。暗号資産が金商法上の金融商品として位置づけられることで、投資助言業・投資運用業、金融商品仲介業、カストディ、レンディング、ETF関連業務など、伝統金融との接続が進む可能性もあります。適切な制度対応は、新たな事業機会の前提にもなるといえるでしょう。

インサイダー規制と市場管理の新段階

今回の改正案では、暗号資産現物について初めてインサイダー取引規制が導入されます。これまで暗号資産についても、不正行為、風説の流布、偽計、相場操縦行為等の規制は存在していましたが、インサイダー取引を直接規制する規定は整備されていませんでした。

改正案では、国内の暗号資産取引業者で取り扱われる、または取扱い申請中の暗号資産を対象に、未公表の重要事実を知る特別な立場の者による売買等を禁止する枠組みが導入されます。規制対象者としては、特定暗号資産発行者の関係者、暗号資産取引業者の関係者、大量売買者の関係者などが想定されています。

重要事実には、発行者の技術仕様の変更、新規発行、取扱開始・中止、ハッキングやシステム障害、大量売買の実施・中止などが含まれ得ます。また、未公表の重要事実の伝達や取引推奨も禁止対象になる見込みです。

これにより、発行者、取引業者、関連するアドバイザー、外部委託先などには、情報管理体制の高度化が求められます。誰がどの情報にアクセスできるのか、重要事実をどのように管理・公表するのか、役職員や関係者の売買をどのように管理するのか。暗号資産業界においても、上場会社や金融商品取引業者に近いコンプライアンス実務が求められる段階に入ったといえます。

パネルセッションでは、リスティングや市場管理の論点も取り上げられました。情報公表規制やインサイダー規制が整備されることで、低流動性銘柄や情報公表コストに見合わない銘柄については、上場維持のあり方が見直される可能性があります。一方で、規制対応を適切に進めることにより、国内市場の信頼性を高め、グローバルな事業者や金融機関の参入を促す契機にもなり得ます。

※当日の資料より

まとめ

今回の金融商品取引法等改正案は、日本の暗号資産ビジネスにとって大きな転換点です。暗号資産は、決済手段としての規制から、投資対象としての規制へと位置づけを変え、情報公表、業規制、不公正取引規制、無登録業者対応など、より包括的な枠組みの中に入っていきます。

事業者にとっては、対応すべき論点が大きく増える一方で、制度の明確化により、金融機関、投資運用業者、仲介業者、カストディ事業者、Web3事業者が新たなビジネスを展開しやすくなる可能性もあります。重要なのは、改正案の条文や政令・内閣府令、今後示されるガイドラインを待つだけでなく、自社の事業モデルにどの規制が関係するのかを早期に整理し、体制整備を進めることです。

JCBAでは、暗号資産・Web3ビジネスに関わる重要な制度改正について、会員様向け勉強会やタスクフォース活動を通じて、継続的に情報共有と議論を行っています。制度変化を正しく理解し、実務に落とし込むための場として、ぜひJCBAの活動をご活用ください。