『仮想通貨の私法上の位置づけ–様々な場面への適用-』
『仮想通貨交換業等に関する研究会報告書について』
カリキュラム及び概要
- 日時:2019年1月30日(水) 17時00分~19時10分
- 場所:フクラシア丸の内オアゾ Hall A(16階)
- 第一部 「仮想通貨の私法上の位置づけ–様々な場面への適用-」
シティユーワ法律事務所 後藤 出氏 - 第二部 「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書について」
上智大学法科大学院教授 森下 哲朗氏
『仮想通貨の私法上の位置づけ–様々な場面への適用-』
シティユーワ法律事務所 後藤 出氏
シティユーワ法律事務所の弁護士の後藤でございます。このたびはこういった場にお招きいただいたこと、また本テーマについてお話しさせていただく機会を与えていただきまして、日本仮想通貨ビジネス協会の皆さんに、本当に御礼申し上げます。それでは時間も1時間ということで限られておりますので、早速始めさせていただきます。
仮想通貨の私法上の位置づけという題、どういうことなのか、私法上の位置づけって一体何なのかということで、ピンとこない方もたくさんおられるのではないかと思います。それでもう少し詳しく言いますと、これは仮想通貨の帰属と移転ということについての私法上の意義は何なのかと、そういうことでございます。それでもちょっとよく分からないと言う方もおられると思います。まず私法、私の法と書きますけども、法律を専門に勉強され方はお分かりかと思いますが、そうでない方は私法って何だという話かと思います。私法とは、要するに公権力とは完全に切り離された私人間、個人の間の法律関係を規律する法律のことで、その代表的なものが民法です。
ですから例えば外為法上、仮想通貨を持ってるとどういう意味合いがあるのかとか、あるいは銀行法上どういう意味合いがあるのかとか、これは公法上の、あるいは行政法上の意味合いということで、むしろ、こちらのほうはかなり議論されているかと思います。しかし、私法上の意味合いということに関しては、まだまだ議論の途上であります。なぜ、これを議論するかというと、この第2部に書かれてますけども、仮想通貨を用いた色々な取引とか、あるいはそれ以外の法律問題、包括承継、つまり相続とか合併とかですが、それから強制執行、倒産など、様々な問題を考えるにあたって、まずはこの帰属と移転の私法上の意味が解明されないと確実な議論ができないのです。その意味で非常に重要な問題でありますが、現在のところ議論の途上ということで、第2部で森下先生からご説明がある金融庁の研究会報告でも、この点に関しては今後継続的に議論していくということになっております。そういうこともありまして、若干、いまさら感があるテーマではあるのですが、本日は、年初ということもありまして、時計を少し巻き戻して1時間、ご辛抱いただきたいと思います。
それでは本題に入りますけども、仮想通貨の帰属と移転の私法上の意義とはどういうことか。例えば私がこのスマートフォンを持ってます。これは、私が持ってるわけですが、このスマートフォンの帰属と移転の私法上の意義は何かと言えば、このスマートフォンを客体とする所有権が私という人に帰属してる、ということになるのです。では、仮想通貨の場合にはどのような説明ができるのか。同じような説明ができるのかそれとも違うのか、そういう話でございます。
こういう議論をする場合には、まず議論の前提というものを固めないといけません。つまり、どういう事実関係を前提として私法上の意義というものを考えるのか、それがまず出発点になります。ある事実関係を特定して、それを基にじゃあその法律的意義は何なのかということを議論しなくてはいけません。そうすると仮想通貨の帰属を考えるにあたっての前提となる事実関係をどういうふうに考えるべきかという問題がまず初めにくるわけです・・・
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民事執行法167条による強制執行の方法として、これは債権執行の例によると定められています。債権執行の例のうち、その他財産権の強制執行は、もっぱら民事執行法161条所定の換価方法が用いられています。これは何かというと、まず譲渡命令です。譲渡命令とは、財産的価値を差押え債権者に譲渡する命令です。財産権がない場合に、命令で財産的価値を移転することができるのか、という問題が考えられます。権利というのは抽象的な存在ですから、合意によって移転することができます。あるいは法律によって移転することや、命令によって移転こともできます。ところが、財産権がない場合は財産的価値の移転のためには事実行為が必須になるところ、譲渡命令という形で財産的価値を移転させることができるのか、売却命令についても同様の問題があります。それから管理命令ですが、これは基本的には使われません。そうすると、最後の、その他相当の方法による換価を命ずる命令として、債務者に仮想通貨の財産的価値の移転のための積極的行為を命じるような命令を発することができるのか、ということが問われることになるのではないかと思います。それがオープンイシューとして残るのではないかと思います。強制執行の問題は非常に専門的な問題で、やはり民事執行の専門家の方々の議論というものがこれから必須になってくるのではないかと思います。
最後に、今後検討すべき基本的問題ということですが、まず、先ほどちょっと触れました、不正取得者に対する権利行使の問題があります。不正取得者の責任財産に不正取得した財産的価値が入るのか入らないかという問題がキーになります。これはケース・バイ・ケースの問題でもあり難しい問題です。
それから仮想通貨の担保化の問題です。仮想通貨に財産権がない以上、担保物権の対象にはなりません。それではどうやって担保化するのかという問題です。
さらに倒産手続きにおける仮想通貨の取り扱いの問題があります。これは取戻権に関しては議論しましたけれども、それ以外にも倒産手続きにおいて、仮想通貨の取扱いに関して難しい問題はたくさんあります。これについても倒産法の専門家を交えた活発な議論が今後必要になるかと思います。
非常に駆け足になってしまいましたが、仮想通貨について財産権が認められない場合に、様々な問題をどういう方向性で整理していくべきなのか、どういう方向性で今後検討を進めていくべきなのかといったことを、きょうはお話しさせていただきました。財産権が認められるという立場であれば、では財産権が認められた場合にどういう方向性で整理していくかということについて、またそちらの立場からのご説明が必要かと思います。本日は御清聴本当にどうもありがとうございました。
「仮想通貨交換業等に関する研究会報告書について」
上智大学法科大学院教授 森下 哲朗氏
上智大学の森下と申します。私は今ご紹介いただきましたように、仮想通貨交換業等に関する研究会のメンバーということで審議に参加をさせていただきました。報告書が出まして、今、恐らく法案作成作業が進んでいるかと思います。その後、具体的にどういう法律になっていくかというところは全然関知をしておりません。細かなところについては、金融庁が今本当に難しい立法作業だと思いますが、いろいろとお考えになられているところかと思います。そういう意味では本当に出来上がってくる法律のディテールが、まさにこうなりますというお話は、これからの立法作業を見てみないと分からない部分が残されているかと思います。本日は、研究会でどんなことが考えられて、大枠どのような方向性になったか、そして、私自身がこういう感想を持って、こういったような部分がよく分からない、といった点についてご紹介をさせていただきたいと思います。
スライドに書いてあるようにいろんなことがありましたが、ここに2018年の3月金融庁が仮装通貨交換業に関する研究会を設置と書いてございます。そしてここに、12月に報告書を出した、とあります。タイミング的には、コインチェック事件などを踏まえてスタートしたわけですが、その後もモニタリングをしてみたらいろいろとあまり芳しくないことが出てきたり、テックビューロさんの件があったりするとか、そのような環境の中で報告書が出来上がってきた、ということがお分かりいただけるかと思います。
仮装通貨の定義が、今どうなっているかということについては、先ほど後藤先生からもお話がございましたので省略いたしたいと思います。今、一応の規定があるということでございます。ただ、これを作ったときには、ICOなども考えていませんでしたし、決済性のことを主に考えて作ったということかと思います。仮想通貨交換業だけが規制の対象というのが今の状況です。これも抑制的に立法をしようという政策的な判断の結果そうなりました。
現行の規制では、マネーロンダリングや利用者保護の観点からの規定が置かれています。作ったときには基本的には決算手段としての仮想通貨を念頭に置いており、その販売保管管理を主とした規制となりました。それなりのことは規定していますが、仮想通貨に対する投資を本格的に念頭に置いた規制の体系とはなっていないかと思います。利用者保護のための措置、情報提供等についてのルールも入っていますが、金商法ほどではないかと思います。また分別管理についてもルールが設けられています。
先ほど、仮想通貨交換業者が顧客から預かった仮想通貨を自由に使えるのか、というお話がありました。恐らく今のこのルールではそれは駄目で、預かった物はしっかりとキープしてくださいということだと思います。そこが銀行と同じように、自分で自由に使えるとなると、世界が違ってくると思います。なので、法律の考え方というのは、基本的にそういう考え方かと思います。
仮装通貨交換業等に関する研究会ということで、これからそのお話をして参りたいと思います。報告書について、お読みになられた方もいらっしゃるかと思いますが、よく分からないところもあるかもしれません。報告書の具体的な中身に入る前に、報告書のバックグラウンドになった、研究会前半における議論についてみてみたいと思います。前半と後半と間にちょうど夏休みを挟みましたが、前半では、どのような論点を問題とすべきか、どう考えるべきか、ということを比較的自由に議論しました。後半は、具体的な立法案、具体的な項目についての議論をしました。ただ、前半の議論の中に、これからの仮想通貨のルールを考えてく際の参考になるかと思うような材料もあります。あるいは、報告書の行間を読んでく上での参考になるような情報もありますので、簡単にご紹介をしたいと思っております。
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あとは、いろいろな定義をどうするのかということです。報告書では厳格な定義を書かなくてよかったのですが、法律になると定義を書かなくてはいけなくて、定義を書くとまた微妙な要素が生まれてくるわけです。どういった定義になるかというところが、本当にこれから注視すべきところで、その定義のされ方でいろんなことが変わってくると思います。
これは報告書の最終ページのまとめに書いてあったかと思いますが、リスクに応じた適用除外ですとか、軽減ということも、今後図っていってもいいのかと思います。これは証券規制においても、限られた範囲でやっているのだから適用除外にするということもあります。海外の金融法制でも、例えば金額が小さかったら適用除外にしますという例もあります。そういうような適用除外、あるいは規制の軽減というものをうまく取り込んでいける、ゆとりのある出来上がりの法律にするといいと思います。
あとは、いろんな規制を新たに作りましたが、既存の資金決済法の規制、あるいは他の各種の規制などとの相互関係というものをよく整理する必要があると思います。できた段階で完璧ではなくても、その後、議論を重ねていくことによって、規制の適切な住み分けということを考えていくことができると思います。また、動きの速い分野ですので、おかしなところがあれば、またすぐ直すというようなことが大事だと考えています。
なお、私は、法定通貨建てであるというだけで規制対象外とする点については、釈然としないところがあります。本当はそういったことも議論されていいような気がいたしております。
あとは、投資や決済以外で、融資とか資金移動に仮想通貨を用いる場合はどうなのかということで、これは今回特に手当はしませんけれども、そんなことも問題になるかもしれません。
次に、登録実務をどうしていくのかということです。非常に画期的なことだと思いますが、金融庁は、仮想通貨の登録審査手続の詳細に関する情報を公表されました。その登録実務がどうなっていくかということが重要だと思います。あとは、分散型交換所というものとの関係で、この交換所規制がどう適用されるかということです。規制それ自体は、ブロックチェーン上に存在してる交換所か、そうではなくて、ネット上でやっている交換所であるかとか、そういうことは気にしてないということだと思います。分散型だろうが何だろうが、お客さんに対して法令で書かれている行為をやっているのであれば、規制の対象になると思います。テクノロジーとか、スキームの違いで法令の適否が左右されるということはないと思います。
あとは難しいのは、やはり規制の実効性をどう確保するかとか、国際的な適用関係をどうするか、ということです。この点は諸外国との協力、あるいは技術者の方々との協力が必要になると思ってます。私法上の問題というものが多々あって、詰めていかなければいけない論点が、少なからずあることは、後藤先生からもお話があったところかと思います。
以上、報告書の前提となる議論としてどういうものがあったか、報告書では何が書かれているか、私がこういうところはどうなるのかと考えてることをご紹介させていただきました。ご清聴どうもありがとうございました。