『セキュリティトークンを実用化するために求められる法制の概要』
『制度設計の視点から見た、ビットコインの仕組みの面白さ』
カリキュラム及び概要
- 日時:2019年5月29日(水) 17時00分~19時10分
- 場所:フクラシア丸の内オアゾ Hall A(16階)
- 第一部 「セキュリティトークンを実用化するために求められる法制の概要」
森・濱田松本法律事務所 増島 雅和氏 - 第二部 「制度設計の視点から見た、ビットコインの仕組みの面白さ」
慶応義塾大学経済学部教授 坂井 豊貴氏
『セキュリティトークンを実用化するために求められる法制の概要』
森・濱田松本法律事務所 増島 雅和氏
議事録は非公開
『制度設計の視点から見た、ビットコインの仕組みの面白さ』
慶応義塾大学経済学部教授 坂井 豊貴氏
講演内容
ご紹介にあずかりました慶應義塾の坂井でございます。本日は『制度設計の観点から見た、ビットコインの面白さ』という話をいたします。
私は経済学者です。専攻はゲーム理論とか実験経済学を用いた制度設計です。今、経済学では、そのような分野をメカニズムデザインといいます。扱う制度は割と多岐にわたります。例えば、オークション制度、あるいは選挙制度、どんな仕組みを作ったら全体がうまく機能するのかといったことをこの分野では考えております。この分野はいろんなところで実用されています。日本ではあまり知られていませんが、アメリカでは、メカニズムデザインの中のオークション理論の知見を IT 企業がビジネスに生かしております。日本ではそういう取り組みはほとんどありません。
ただし、日本では、非常にまれな例外として、このデューデリ&ディールという会社で、私は土地をオークションにて高値で売約する仕組みを作る作業に従事しております。要するに、物をうまく高値で売るためのサイエンスを、この分野では研究したりしております。それは土地のみならず、コインとかセキュリティトークンのオークション販売を実用できるものであったりします。ただし、きょう、これからお話しするのはオークションではありません。ビットコインの仕組みです。
ビットコインの仕組みというのは、エンジニアの方が見たら、コードで書かれた電子上の仕組みたいなものかもしれませんが、制度設計の研究者があれを見ると制度に見えます。あの制度はうまくいっているのか、うまくいっているとすればなぜなのか、これをやればうまくいくのかといったことをきょうは話すつもりです。
ビットコインはしばしば、管理者が存在しないと説明されます。しかし、これはあまり正しい表現ではありません。管理者は存在するのです。あれは要するに金の仕組みなので、誰かがうまく管理しなければなりません。管理の仕方が変わっており、特定少数の主体による管理、すなわち中央管理ではなくて、不特定多数の主体による管理、すなわち分散管理であります。
ここでキーワードとなるのは decentralization です。decentralization というのはなかなか日本語に翻訳し難い言葉です。あえてするならば分権とか分散とか脱中央といったようになります。ブロックチェーン業界の人と話すと、decentralization という言葉は当たり前のように使われます。これはメカニズムデザインを長くやってきた私としてはすごくうれしいことです。もともと、経済学では decentralization は非常になじみのある言葉です。なぜなら、こうした分野の研究者たちは毎年、秋にDecentralization Conference というものを昔から開いているからです。そのメカニズムデザインとそうしたブロックチェーン技術は非常に親和性がよいものであったりします・・・
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話をクローズしたいと思います。よく、ビットコインの仕組みについては『マイナーの金銭インセンティブ設計が特徴』というふうに評されるんですが、経済学者としては、これはいいところだともちろん思うのですが、金銭インセンティブだけでその生態系が動いていないのが非常に面白いところだと思います。恐らく、人間は金銭インセンティブだけではコミュニティーのようなものはつくれないのだろうと思います。コア開発者みたいに、信念みたいなもので動いている人が必要なのです。さっきのイーサリアムの分裂の話を見てみますと、一つの暗号通貨のコミュニティーは一つの実験社会のようなものだと見ております。まだあまり注目されていませんが、文化人類学者が誰か、本格的に分析したら面白いのにと思います。とはいえ、その上で、やはり、金銭インセンティブの設計は重要で、これについてはメカニズムデザインの知見が活用できると考えております。
一つ、提案したいのは、ここで提案して何か変わるわけではないのですけれども、やはり、12.5 ビットコインのブロック報酬は、金額をどうするかはさておき、永遠に出続けるようにした方がよいのではないのかと考えます。少なくとも、ビットコインのブロックチェーンについての研究成果をいろいろ見てみる限りでは、ブロック報酬がなくなるのは非常にアンハッピーそうです。
12.5 ビットコインのブロック報酬がプロトコルから自動的に出続けるようにするのは、非常に弱いペースではあるけれど、インフレが起こり続けるということです。インフレが起こるというのはどういうことかというと、ビットコインを既存、持っている人は、わずかだけれど通貨価値が減ることによってコストを負担するということになりますが、これは負担の仕方としてはまっとうと言ってよいのではないでしょうか。また、増え方のペースは完全に伸びていきますので、法定通貨の突然のインフレのような混乱は起こらないはずです。だから、ブロック報酬をずっと出続けるようにしても特に困ったことはないのでないかと考えます。
以上で私の話はクローズしますが、私、こういうような話とか、コインの売却オークションの話など非営利の月例ワークショップ、Auction Lab 等でやっております。関心のある方は私の Twitter をご覧になっていただければ、情報がありますので、見ていただければと思います。以上でございます。どうも、ありがとうございました。