『USTに見る暗号資産型ステーブルコインの可能性について』
『クリプト業界のためのメタバース入門』

カリキュラム及び概要

  • 日時:2022年5月30日(月) 17:00〜19:00
  • 場所:オンライン配信

 

第一部 :
『USTに見る暗号資産型ステーブルコインの可能性について』

辻 和幸氏
株式会社HashPort 取締役CBDO / 株式会社HashBank 代表取締役CEO

 

(辻)
 USTに見る暗号資産型ステーブルコインの可能性について、お話しします。連日USTに関する報道がなされており、世の中にとっても大きな出来事となっています。報道だけ捉えるとステーブルコインは怖いものではないか、暗号資産型ステーブルコインは運用に堪えないのではないか、といったネガティブな意見が先行してくると思います。それらが正しいのか、お調べしたものを発表させていただきます。
 まず自己紹介です。私は長らくヤフーで決済事業をしていました。その後、みずほ銀行に入り、スタートアップとJVをつくり、また銀行としての新規決済事業であるJ-CoinPayの立ち上げを行いました。その後2019年9月にディーカレットという会社に移り、デジタル通貨事業の立ち上げ、デジタル通貨フォーラムを組成して、銀行発行デジタル通貨(DCJPY)の基本デザインを策定しました。今年からはHashPortに移り、4月に設立したHashBankという会社の代表を兼任しています。HashBankではもともとHashPortが取引所様向けに提供しておりましたフレセッツウォレットの事業継承をし、柱にしております。加えて、新規事業の仕込みを行っております。

 それでは、USTの概要と今回の事象について、話を進めていきます。
 まず、Terraエコシステムの概要です。Terraは韓国に拠点のあるTerraformLabs社が推進するプロジェクトの名称です。また、ブロックチェーンの名称でもあります。Terraチェーン上のステーブルコインのUSTとガバナンストークンのLUNA、それからレンディングサービスのAnchorProtocol、この三つの要素で構成されたエコシステムを指しています。
 USTは2021年頃から注目を集めるようになったステーブルコインです。約1年間に時価総額が一気に1兆円を突破した、急成長を遂げたステーブルコインです。そのガバナンストークンであるLUNAはUSTの価格を安定する上での重要な役割を担っています。このLUNA自身もステーキングを行える特徴を持っていました。このUSTとLUNAは日本国内取引所での取り扱いはされていません。そして三つ目が、このUSTをはじめ、ステーブルコインを貸し出すことで、20パーセント近い利回りを得られるAnchorProtocolです。AnchorProtocolでは、借り入れを行う場合、担保を預ける必要がありますが、この預けた担保自体に金利が発生して、そのお客さんが借り入れる際に支払いをする借入金利と相殺することができる仕組みになっているため、結果的に低金利で借り入れができるサービスになっています。
 下落直前のUSTの時価総額は約180億ドルありましたが、そのうちの約80パーセントの140億ドルがこのAnchorProtocolにロックされていて、非常に高い人気を誇っていたことが分かります。また、1年で1兆円の時価総額を突破したその背景として、このAnchorProtocolが非常に強力なドライビングフォースだったことがよく分かります。この三つが作用し合って、Terraのエコシステムが構築されています。

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 最後にユースケースの切り口で見ると、USTは80パーセントがAnchorProtocolで利用されており、特定のユースケースでの価格変動の要因の依存度が高くなっている状況です。これ自体は顕在化しているリスクではないかもしれませんが、例えばAnchorProtocolのAPY、いわゆる年利の調整を誤ってしまうと、UST全体の価格維持に影響してしまう可能性もあると考えられます。一方、DAIは広くDefiで利用されていて、ユースケースも分散化されているため、リスクを負う可能性は少ないと考えていて、その辺りがUSTとDAIの大きな違いと言えるかもしれません。

 DAIの安定性に関するまとめです。暗号資産型ステーブルコインの安定性に寄与する論点は大きく二つあるかと思っています。まず、超過担保されていて、DAIはその担保率は150パーセント超となっています。担保に設定している暗号資産の価格が下がって、担保率がしきい値を下回ると、強制リクイデーションが働いて、預けていた担保が強制的に売られ、この仕組みによって超過担保率が守られていることになります。
 もう一つのポイントは、単一起点によるリスクが排除されていることかと思います。USTはアルゴリズムの一端を担うLUNAとの相関性が非常に強く、加えてそれぞれ同一のプロジェクトによって発行されていて、信用リスクが1カ所に集中しています。それに対してDAIは複数のアセットが担保に設定されており、リスク分散されているため、個々の暗号資産が直接的なリスクとして影響することは恐らくありません。
 これらの大きな二つの機能によって、DAIの安定性が担保されています。2020年3月にETHの価格が半分に下落した際にもペッグは外れませんでした。この二つの要件は、暗号資産型ステーブルコインの可能性を探っていく上で、何かしらのヒントになるかもしれないと感じています。

 最後にまとめです。自律分散化が進んでいく世界がWeb3.0と仮定すると、そこで求められるステーブルコインの要件としては三つあると思います。プログラマビリティーが備わっていること、パーミッションレスであること、規制に順守して価格が安定していて安全に利用できることです。現時点ではこれらの要件を満たすステーブルコインは、まだ日本国内には存在していません。日本ではWeb3.0が成長戦略であるとの声も発せられていますが、これらを推進していく上では、このステーブルコインは不可欠だと考えています。そこに対する戦術として、法定通貨担保型ステーブルコインの取り扱いに関する法制化を行うこと、また価格が安定している暗号資産型のステーブルコインの実現、この大きく二つがあると個人的には考えています。どちらか一方を選択するよりも、両方を並行して進めていき、動きを止めない、歩みを止めないことが大事であると考えています。

 

 

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第二部 :
『クリプト業界のためのメタバース入門』

斎藤 創氏 創・佐藤法律事務所 代表弁護士、NY州弁護士
今成 和樹氏 創・佐藤法律事務所 弁護士

 

(司会)
 第2部に移ります。第2部は斎藤先生、今成先生にお話しいただきます。テーマは『クリプト業界
のためのメタバース入門』です。民間の調査によると、メタバースは2028年には全世界で100兆円超えをするのではないかとのことで、まさにどんどん市場が盛り上がってきています。そこで、メタバースとはそもそも何か、法規制面でどのようなことをカバーしなければいけないか、クリプト業界とどのような接点があるか、などをお話しいただきたいと思います。
 それでは創・佐藤法律事務所の斎藤先生、今成先生、よろしくお願いします。

(斎藤)
 よろしくお願いいたします。自己紹介です。私は西村あさひ法律事務所で16年間、証券などに携わっていました。今は独立してブロックチェーン、フィンテックスタートアップ等を専門にしていま
す。クリプト専門なのでメタバースにはそこから関連し、NFT・ブロックチェーンゲームの仕事で関わるようになりました。最近はメタバースの仕事も増えてきています。MetaverseJapanという協会の幹事や、他にもクリプト系でいろいろと業界団体のメンバーをしています。

(今成)
 私は2018年から弁護士を始めまして、昨年から創・佐藤法律事務所に勤めています。斎藤と一緒にフィンテック関係の案件を担当し、昨年はNFTの教科書の執筆にも参加しています。きょうは知的財産関係のことをお話ししようと思っています。

(斎藤)
 まず、メタバースとは何かです。人によって言うことが違いますが、共通のイメージとしては、VRやAR、いわゆるXRといわれるものです。一番分かりやすいのはVRですが、それらを使って仮想現実空間で遊ぶ、交流をするというイメージです。最終的には映画や小説、アニメのような世界観で、その中では『レディ・プレイヤー1』『竜とそばかすの姫』『ソードアート・オンライン』のような世界をメタバースというのだろうと思います。ブロックチェーンゲームは、最終的には『レディ・プレイヤー1』のような世界を目指すと言っている人が多いです。メタバースは、典型的には3Dを使ったVRですが、Fortnightがメタバースをうたっており、3Dを使っていなくてもメタバースであり、オンラインゲームとメタバースは何が違うのかを言い出すとよく分からないことになってきます。

 メタバースの定義については、日本のメタバース関連団体はメタバースをどう捉えているのかをMoguraVR編集部が各団体に質問をしていて、これは参考になると思います。メタバースの言葉自体は非常に広範に使われており、それぞれの業界がそれぞれの理解でメタバースを名乗っているのが現状です。今後、テクノロジーや時代の変化の中で、メタバースの概念が収れんしていくものと想定されています。また、メタバースは仮想現実空間を利用し、ユーザー同士のコミュニケーションや現実さながらのライフスタイルを可能にする世界であると同時に、物理世界を拡張する世界の大きな枠組みです。10年後には多くのアプリがVRやARにネーティブ対応していくことを想定しているものの、現時点でXRに対応しているか否かは最重要事項ではない、そのような回答がなされています。

 次に、メタバースの具体的事例です。最初が産業用メタバースです。これは、NVIDIA社の提唱するomniverseやMicrosoft社の提唱するMicrosoftMeshのように、製造業や各種シミュレーション、XRミーティングを生かした共創ツールといった産業用途のメタバースです。例えば、MicrosoftMeshは、地理的に離れたチームが複合現実上に集まって、参加者が自身のアバターを描写して、チームと共有可能な複合現実セッションを実現することで、相互協力を可能にするものです。図は車の設計について議論している様子だと思われます。
 次は物理拡張メタバースです。人間とロボットの共通認識を持つデジタル空間としてのメタバース、ARを活用したメタバースであって、リアル拡張までを概念としたものも含むものです。
 次はバーチャルSNSです。VRなどを使ったSNSで、ユーザー同士の交流や関係性を拡張するメタバースです。この中で交流し、遊ぶことができます。ゲーム要素もありますが、交流がメインです。自分がどのような格好をするか、メタバース上のキャラクターでどのような顔、体形とするか、どのような服を着るか、また家具などはユーザーが作成できるものが多く、ユーザーが作成して販売するなどをして、カルチャー発信のユーザーコミュニティーがあるものが多いかと思っています。
 次がWeb3メタバースです。NFTとひも付いたメタバースです。『Sandbox』というゲームがあって、ゲームアイテムがいろいろと売られています。ゲーム上で土地を買って、その土地上で開発して、そこで遊べるのが『Sandbox』のようなWeb3メタバースです。
 次がIP主導メタバースです。エンターテインメント型のメタバースです。例えば、ディズニーメタバース、ガンダムメタバースなどの強力なIPが主導するIP完結メタバースです。また、東京ゲームショウや東京ガールズコレクションなどのイベント単位のメタバースも既にアナウンスされており、イベントラウンジやVIPラウンジなどが設けられています。
 『Roblox』や『Fortnite』などのゲームをメタバースに入れるかは、いろいろな議論があります。

 MetaverseJapanとしては、『Roblox』や『Fortnite』など、事実上の次世代ソーシャルプラットフォームとして稼働しているこれらのゲームなどを全く見ないでメタバースを語るのは、大きな時代の変化を見過ごすリスクが高いので、ワーキンググループのメイン要素ではないけれども取り扱うと書いてあります。少し微妙な書き方をしていて、『Roblox』や『Fortnite』がメタバースかどうかは直接回答していませんが、取り扱うとの言い方をしています。ここは団体や論者によって見解が異なっています。

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(今成)
 次に、その他関連する法律について少しお話しします。まず所有権です。これはNFTでよくある論点です。民法上所有権はNFTに生じないため、ゲームアイテム等のNFTを購入する場合には、どのような権利が帰属するのか、当事者のほうでしっかり定めておく必要あります。次に肖像権、プライバシー権です。これは主にメタバースでアバターを想定しています。仮の外観をリアルに再現したアバターを使用する場合には、特にプライバシー権、肖像権について配慮が必要になります。
 次がオンラインハラスメントです。メタバースの没入感の高さ故に、既存のSNSと比べていろいろなハラスメント行為が想定されます。例えばセクシュアルハラスメントなどの場合には、軽犯罪法、迷惑防止条例などが取り締まりの対象になります。これらはいずれも公の場所、公共の乗り物、直接触るなどの表現になっていて、当然メタバース上でアバターのそのような行為に直接適用されることはなかなか難しいかと思っています。その他には、侮辱罪の厳罰化などが3月にありました。これらのハラスメントへの対応は議論されていますけれども、なかなかメタバース上の権利侵害に対応できない可能性があるのではないかと考えています。
 最後に関連する許認可についてです。電気通信事業法上の届け出が必要になる場合、また決済手段等を提供する場合には資金決済法上のライセンスが必要になる場合があります。

(斎藤)
 クリプト業者とメタバース、今後のビジネスと書きました。NFTマーケットの作成とNFTの上場で、CoincheckNFTはそもそもNFTがメタバースの仕組みにすぎず、メタバースのNFTを取り扱うことは当然、考えられます。メタバースの仕組みとしてNFTや暗号資産を埋め込む場合の技術等での支援が考えられます。NFTはメタバースの一部にすぎないので、メタバース全体にクリプト業者が関係するのはなかなか難しいかと思いますが、今後Web3とメタバースがより融合していく可能性は結構あるかと思っています。
 そうするとNFT、暗号資産を使って収益性を上げようと思うと、BtoBで収益性を上げるのは課金モデルであればいいと思いますが、そうではなく、コンシューマ向けに収益を上げようとすると、何かを売ることが必要になります。NFTを売る、あるいは単なるゲーム内資産を売る、これに分かれるかと思います。Web3型メタバースであればNFTを売る、Web2型メタバースであればゲームのアイテム、前払支払資産を売ることになると思います。いずれにしても、何らかの課金要素が必要になり、そのNFTのニーズがあるのであれば、クリプト業界のニーズもあると思うので、クリプト業者的にはメタバースに着目していってもいいのではないかと思っています。

 

 

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