『日本と海外のユースケースに見るSTOの近況』

2024年9月24日(火)に開催された9月度勉強会の当日の様子をレポートする。

『日本と海外のユースケースに見るSTOの近況』では、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)の国内外のユースケースを深堀りし、また今後の展望について小林 英至氏(Securitize, Inc. Country Head, Japan)が解説した。

・国内事例

STO(セキュリティ・トークン・オファリング)は、資産や有価証券の価値をデジタル化した「デジタル有価証券」として発行する新たな資金調達手法として注目され、日本国内でも多様なスキームがあり、それぞれの特徴やメリットを持ちながら展開されている。

例えば、投資家との直接的な関係構築を可能にした「自己応募型STスキーム」は、企業のブランド価値向上や新たなマーケティング効果が注目されている。また、SNS上で話題性を生み出し、資金調達と同時に事業への親近感を醸成する「特典付社債スキーム」は、企業活動への共感を広げる手段として高い評価を得ている。さらに、金融機関の信頼性を活用した「銀行販売型STスキーム」は、外貨建てのセキュリティトークンをユーザー体験として提供し、幅広い層の投資家に支持された。一方、不動産投資とデジタル資産を組み合わせた「不動産特定共同事業×NFT特典スキーム」は、日本初の不動産クラウドファンディングとして、投資家に新たな価値を提供するエコシステムの構築に寄与している。

資金調達だけでなく、投資機会の民主化やブランド価値向上といった多面的な効果をもたらしており、日本国内ではSTOの可能性をさらに広げている状況である。

 

・海外事例

海外においても資産や有価証券の価値をデジタル化する新たな資金調達手法として注目されており、特にパブリックブロックチェーンを活用した透明性とグローバルなアクセス性を備えたスキームが多く展開されている。

例えば、資産運用会社BlackRock Inc.(ブラックロック)は、暗号資産Ethereum(イーサリアム)を活用し、オンチェーン※1 で完結する資金調達を実現した。米ドルと同等の価値を持つステーブルコインであるUSDCによる資金召喚を可能にすることで、投資家だけでなくブロックチェーンを基盤とした経済圏やサービスを日常的に活用して生活する人々をターゲットにした新しい市場を開拓し、500億円以上の資金調達に成功した。この事例は、伝統的な金融市場とデジタル資産市場の融合を進める画期的な試みとして注目されている。
また、完全トークン化IPOやグローバル規模での資金調達を可能にする仕組みも検討されており、トークン化の適用範囲がさらに広がっている。

多様なスキームは、米国を中心に進化を続けており、資産の透明性向上、投資家層の拡大、トークンのグローバル流通といったSTOの可能性を最大限に引き出している。これらの成功事例は、他国でも参考にされ、今後のSTO市場の成長を牽引する存在となっている。

※1 オンチェーンとは、ブロックチェーン技術における一つの概念であり、ブロックチェーン上に記録される取引もしくはその仕様のことを指す言葉。

 

・今後の展望

STO市場は、2023年度には2300兆円規模に達するとの予測され、今後も資産や証券の多様化と市場全体でのトークン化が進むと期待されているが、日本のさらなる発展には、グローバル競争力を持つモデルやスキームの構築が求められている。特に、パブリックブロックチェーンの活用による透明性と国際的な取引の促進、セカンダリーマーケットの整備による流動性向上が重要であると考える。また、ブロックチェーン技術を活用し、国を超えた資金調達や市場拡大を実現することで、停滞していた従来のスキームに革新をもたらす可能性がある。これらを推進することで、日本発のグローバルな成功事例を創出し、STO市場の成長を牽引することが期待されている。