『シンガポールを中心とした東南アジアにおける暗号資産規制の現状と展望』
『交換業者・カストディアンからの暗号資産漏洩をどう防ぐか – CGTFでの検討と今後の課題』

カリキュラム及び概要

 


『シンガポールを中心とした東南アジアにおける暗号資産規制の現状と展望』

ONE ASIA LAWYERS 森 和孝氏

 (森氏)ご紹介に預かりました、弁護士法人 One Asia の森と申します。今、ご紹介いただいたように、本当に何も日本に来る予定なかったのですが急きょ来ました。今回、1 時間の講演ということで、時間的に非常にタイトなので全て触れきることはできないのですが、私自身がシンガポールの弁護士事務所で勤務をしておりまして、ご存じのとおり、ここ数年、ICO等は日本ではなかなか難しいということで皆さんシンガポールに来られて、ICOなりSTO的なことをされているということで、ほとんどの案件は、弊社というか、私が担当するような形でこれまで支援させていただいております。
 私のことをご覧になるのは初めての方がほとんどだとは思います。日本では本当に全然、活動をしてこなかったのですが、このような会にお招きいただきましてありがとうございます。2年ぐらい前からこの仮想通貨関係の案件、特にICO 支援をやっていて、多分、皆さんご存じの弁護士といえば、河合先生とか増島先生かと思いますが、日本の側では彼らと一緒に提携して、シンガポール側で私がリーガル面を見るというような感じで、今までやってきました。今までずっとメールとかラインとかスカイプでしたが、最近よく直接お会いさせていただいて、日本側にもわれわれが持っているアジア側の知見を、少しでもフィードバックできたらなということで、こういう活動もいろいろさしていただいているということです。

 すごく多岐に渡るといいますか、シンガポールを中心とした ASEAN、東南アジアでいくと10カ国あって、そのうちライセンス制を取っている国が約半数、今あるので、その詳細を全部スライドにはまとめています。ただ、それぞれの国でICOをするのに、資本金が幾ら以上いるとかというのをあまり暗記してもためにならないと思うので、ざっと比較するような視点、大きな視点からお話させていただければと思います。スライドは多分、講演後に共有はさせていただけると思うので、細かな部分というのは特にメモ等はいらないと思います。

 取りあえず、せっかく来たので自己紹介というか、事務所紹介だけさせていただくと、弁護士法人One Asiaというのが日本の法人名で、One Asia Lawyers というグループでASEANのブルネイを除く 9カ国とインド、そして東京に事務所を構えております。この事務所 One Asia をお聞きになったことがある方は挙手をお願いします。お、でもやはり 0.5%ぐらいですね。昨日、日経新聞で日本のM&A事業承継事務所ベスト50で選ばれまして、最近有名になってきております。まだできて3年ぐらいでありますが、150名ぐらいの従業員を持っていて、そんな具合でやっております。

 ASEANに特化しているので基本的にM&Aが多いですけれども、シンガポールは、ご存じのとおり特にフィンテックとかAIとかそういう最新テクノロジー系の企業が非常に多いので、そういうこともあってブロックチェーンに関することも非常に積極的に取り扱っており案件としては多いです・・・


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 例えば不動産を買うのにみんなからお金を集めて、それで物件を買って配当を渡すとか、そういうシンプルなものから始まっていくと思いますけれども、いろいろとそれが広がっていくだろうということです。多くのSTOがシンガポールで既に実践されていますけれども、これは恐らく全てが少数私募であって、その場合には機関投資家や認定投資家に限定されたり、一般投資家は年間49人までしか募集できないとか、いろいろ条件があったので、難しかったです。

 欧米でもSTOが非常に増えてます。文字ばかりで申し訳ないですけど、STOには既存の有価証券規制とは異なって、国によって規制の厳格さはすごく差があります。もちろん規制がない国もあるし、もっと厳しい国もあります。フィリピンだったらSTOの実施が今後、激増する可能性があります。しかも、どこの承認も得てないとかではなく、国が認めてますという形で激増してきます。同国のライセンスの発行のペースを見ると、50日以内に審査をしないといけないという日数の制限もあり、十分に審査されるのかという不安があります。

 例えば、他にもシンガポールでSTOをさきほどのCapBridgeというところがやっています。そこのプレスでは、外国の居住者は誰でも投資可能で、何の審査もいらないですみたいなことを書いてたりします。そうするとオンラインだと世界中どこからでも投資可能なSTOで、各国の証券規制と衝突する可能性があります。例えば日本語でそれを投資できた場合に、日本の一般投資家がフィリピンのSTO 案件にどんどんと資金を入れた場合、日本の証券法規制を守ってないという話にはなり得ます。

 なので、STOに関しての国際的な枠組みがないと、なかなかSTOを世界中で普及させて資金調達がすぐに簡単にできますよ、というふうにはなかなかはならないんじゃないかなというふうに思っているところです。以上でございます。すいません、駆け足になりましたが、ありがとうございました。

(全体のデータは正会員・特別会員のみ公開)


『交換業者・カストディアンからの暗号資産漏洩をどう防ぐか – CGTFでの検討と今後の課題』

Cryptoassets Governance Task Force, Security WG 主査 楠 正憲氏
※本議事録はJCBA事務局で作成したものです。文責JCBA事務局。

 (楠氏)よろしくお願いします、楠です。私自身は、特に交換業者等をやっているわけではないですけれども、MUFGのフィンテックの会社のCTOとして、いろんなレンディングのスコアリングエンジンを作ったりですとか、あとは、OpenIDFoundationJapanという、OpenIDという認証技術で『ポケモンGO』とかGoogleで使われてるような技術の、日本での啓発活動をしております。仮想通貨、暗号資産との関係で言いますと、ちょうど昨年の仮想通貨交換業等の研究会に参加させていただいて、そのご縁で先般、日本仮想通貨交換業協会に外部から理事として入らせていただいております。背景としては、もともとブロックチェーンの国際標準化をYahoo!にいた頃から、この3年近くやっておりまして、きょうご紹介するCGTFの活動というのも、もとはというと、このISOのTC307という、ブロックチェーンの国際標準化をしている所で、やはりカストディアンのセキュリティー考えなくてはいけないだろう、ということで決まった流れを受けて取り組んでいるということになります。

 最初に大体、今時の話題の話をいくつかしますけれども、最近よくいろんなところで議論になる話、三つさせていただきます。これは直接、仮想通貨とは関係ないですけれども、広い意味で決済手段という点だと、やっぱ7payがいろんな所で議論になっていて、銀行の人たちと話をしていても、相当ショックが大きかったみたいです。こんな上場企業の立派な会社が、やはりちゃんとした会社にシステムを発注しても、何でこんなにいっぱいトラブルが起きてるんだろうか、というようなところです。もともと、リスト型攻撃というふうに当初言われてましたけれども、その後、認証連携、特にアプリで認証連携する部分がちゃんと実装されてなくて、実質パスワードなしで入れるような状態になっていました。あとは、パスワードリセットのところです。ここで別のメールアドレスを登録できるみたいな問題がありました。これが純粋にその業者側がちゃんと実装できてなかったという話なのか、それとも発注する側が、例えば、途中でいきなり仕様を変えてしまったりだとか、テストがしっかりできてなかったりだとか、いろんな理由がこれから明らかになってくると思います。議論の行方によっては当然、恐らく各交換業者さんもアプリを作られていらっしゃる中で、そこでの認証の仕組みだとか、品質管理の話に跳ねてくる可能性というのもあるかもしれません。これまで大体どの何とかペイアプリも、いわゆる不正送金とか、カード番号を盗まれてマネタイズされるみたいな問題は起こってきましたけれども、アプリの作りそのものの問題が出てきたのは今回初めてなので、これは本当に他の業者ではないんだよね、というところは議論されるのかというふうに思います

 あとは、冒頭でも少し触れられてましたけども、FacebookがLibraを発表しまして、タイミングがちょうどアメリカも含めてFacebookのプライバシーの取り扱いとかでもめてる時期だったこともあったので、Facebookがこれをやるのかという形で大きな問題になりました。けれども一方で、根っこでいうと、これはやはり今度の暗号資産規制にも大きな影響がありますし、そもそもLibraは日本法で暗号資産になるのか、という議論を当局の方などともよく議論しますけれども、恐らく暗号資産にあたらないという判断をするのではないかというふうに私は思っています。これはなぜかというと、ビットコインは蓋を開けると、後ろ側に何もない、バックアセットが何もないということが分かっているので、監査する対象とかチェックするものがないのです。ともかく、それを信じてる人たちが信じて売買してて、そういうものだという立て付けですけれども、Libraの場合に、やはり二つか三つの理由でそういう扱いはできません。逆に、ビットコインのときにはコモディティで、金とか原油とかと一緒です。値段のついたものを扱えば、金融システムとか決済システムには影響を与えないけれども、Libraのようなバックアセットを持っているものというのは、例えば、後ろにこの資産があって、裏付けがあるから価値があってそれが安定するのです。そう言ったときに、本当にその価値が後ろ側でちゃんと持たれているのかというのは、例えば、先般、アメリカでテザーが裁判になって、実際にはバックアセット6割ぐらいしか持ってなかったということが明らかになりましたけれども、じゃあ、そういった資産保全がしっかりできているのか、みたいなことを誰かがチェックをしなきゃいけません。そういう意味では、やはり規制当局から見ると、ビットコインとは全く違う面があります・・・


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 あとは、これはもう若干、政治的な話になりますけれども、ICOだけじゃなくSTOのルールも今後、安全管理も含めて考えていかなきゃいけません。ただ、これそれぞれ独立しているかというと、実際の場合は払い込み側と、それで発行されるトークンで、イーサリアム始めとして、暗号資産と電子記録移転権利というのは非常に密接な関係があるので、これをばらばらに議論することはできません。とはいえ、法律上は金商法の自主規制団体で決めていく必要があるので、ここを新団体が作ろうとしてる方もいらっしゃいますし、日商協みたいな所と連携できるのかとか、あるいはJVCEAでどこまでできるのか、分からないところもありますけれども、これも平行して、この春へ向けて今後議論が進んでいくだろうと思います。

 あとは、日本がいろんな面で、ルール整備で先行してはいますけれども、やはり、ブロックチェーンの開発者も含めて海外に非常に多くのプレーヤーがいて、各国の規制の影響を実際のビジネスが受けてくるので、ここはますます国際的な協調というのは重要になってきてますし、裏を返せば、日本でだけ厳しいルールを作っても、日本の会社が困るだけで、なかなかやはり難しいのだろうなというふうに思います。

 最後に、いろんな形でこれまでもドキュメントレビューをいただいたりですとか、右も左も分からない時に、交換所の中はこうなってるというところをだいぶ教えていただいた歴史があるんですけれども、そういった事業者の実践的なノウハウっていうのを、今後もどう、きちっとトランスファーしていただけるかというところは悩んでおります。やはり、特に競争してる業者間というふうになると、手の内を明かす部分とかも、なかなか困難なところがあるというのは、承知はしていますけれども、何とか、やはり業界として信頼を維持していくために一緒にやっていける世界、これを業界の中だけではなくて、セキュリティーの関係者とか、学者とか、いろんな人たちを巻き込みながらやっていきたいというふうに考えております。ご清聴ありがとうございました。

(全体のデータは正会員・特別会員のみ公開)