『Ethereumの大型アップグレード“The Merge”の概要と最新動向』
『Web3.0/メタバースの発展と金融ビジネスの変革』

カリキュラム及び概要

  • 日時:2022年8月31日(水) 17:00〜19:00
  • 場所:オンライン配信
  • 第一部(講演) 17:00〜18:00 : 『Ethereumの大型アップグレード“The Merge”の概要と最新動向
    (講演概要)
    スマートコントラクトのプラットフォームにおける代表的な存在であるEthereumでは、現在コンセンサスアルゴリズムのProof-of-WorkからProof-of-Stakeへの移行やシャーディングの導入といった大規模かつ長期のアップグレードプロジェクトが進行中であり、9月中旬には大きなマイルストーンのひとつである「The Merge」を迎えます。その「The Merge」について、技術的な観点を軸に概要を確認しつつ、エンドユーザーや事業者に与える影響について最新動向を踏まえて検討いたします。

     
    ■ 講演者
    横井 大輝氏 : ビットバンク株式会社 Platform部部長

     

    第二部(講演) 18:00〜19:00 : 『Web3.0/メタバースの発展と金融ビジネスの変革 (非掲載)』
    (講演概要)
    DeFiやDAOは伝統的な金融機関を代替し、NFTや暗号資産、セキュリティトークンは、これまで限られていた資金調達手段を提供し、投資家や購入者にこれまでにない顧客体験を提供します。金融ビジネスのあり方を大きく転換する Web3.0 がメタバースの発展とともに拡大しつつあります。本セミナーでは、金融機関のビジネス基盤を大きく変えるWeb3.0について詳しく解説するとともに、拡大のきっかけとなり得るメタバースを取り上げ、金融ビジネスの将来について考察します。

     
    ■ 講演者
    保木 健次氏 : 有限責任 あずさ監査法人 金融統轄事業部 ディレクター

     

 

第一部 :
『Ethereumの大型アップグレード“The Merge”の概要と最新動向』

横井 大輝氏 : ビットバンク株式会社 Platform部部長
 

(横井)
 皆さま、ご参加ありがとうございます。ビットバンクの横井です。本日は『Ethereumの大型アップグレード“TheMerge”の概要と最新動向』というテーマでお話しします。
 アジェンダでは3本立てです。まずマージの概要について、次にそのマージが実際に起きる場合の具体的なプロセスです。最後に、マージによって起こる変化という広いテーマについて話します。早速マージの概要から始めます。

 まず背景を簡単に振り返ります。Ethereumは分散性を落とさない処理性能の向上に長い間注力してきました。特に2017年には、CryptoKittiesが流行してチェーンが詰まることもあり、長い間スケーリングが大きなテーマになっています。
 2018年には多くのスケーリングの施策をEthereum2.0という形で一つのロードマップにまとめました。これが当時、Devconで発表されたときの図です。BeaconChain、フェーズ2に分かれたSharding、データチェーンとEWASMの記載があります。シャードチェーンでVMを実行するEWASMも当時のロードマップにありました。
 当初のロードマップではShardingが非常に重要な軸でした。Shardingの実現により、トランザクションの並行実行が可能で、スケーリングの施策になるとされていました。このShardingを実現したBeaconChain、Eth2のところに今のEthereumのEth1のチェーンがシャードの一つとして取り込まれるものを当初はマージと呼んでいました。
 しかしEthereum2.0の各フェーズが大きく遅れる中、Rollupと呼ばれるLayer2の技術が台頭してきたこともあり、Rollupを軸にしてスケーリング課題に対応するという方針転換がされました。これはShardingでVMを実行することが困難でリサーチも進まないためでした。また急速なDeFiの普及とその需要を取り込む形でLayer2のいくつかの技術がプロダクトを出てきたとことも大きな原因です。
 この方針転換の中で、Shardingを待たずにマージを実行すればよいという提案が生まれました。これがアーリーマージプロポーザルです。特にShardingではなくてもコンセンサスエンジンの入れ替えが可能ではないかという提案でした。この提案が現在のTheMergeに直接つながっています。
 次にTheMergeで何がマージするのかです。左側にあるEth1が現在動いているEthereumのチェーンです。今後はExecutionLayerと呼ばれますが、右側がEth2のConsensusLayerです。こちらは2020年末頃に動き始めたBeaconChainを指します。この二つのマージがTheMergeです・・・

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 検閲耐性の話です。先日のTornadeCash開発者の逮捕後、検閲耐性の話題が増えています。増えている理由について話します。PoSでは検閲可能なポイントが増えるために検閲耐性が下がることが懸念されています。
 検閲のタイミングとして分かりやすいのは、バリデータ自身がブロックを生成するタイミングです。このとき当然自分でトランザクションを選びますが、TornadeCashを利用しているようなトランザクションは入れないという形でブロックを生成する場合です。
 二つ目はバリデータが、他者が生成したブロックに投票を行うタイミングです。良さそうなものに投票するタイミングでTornadeCashを使っているトランザクションがあれば、自分はそこには投票しないという検閲のパターンもあるということです。
 一つ目のブロックを生成するタイミングのみの検閲の場合は分かりやすいですが、実効性は弱いです。例えば50パーセントのシェアを持つ人がその検閲をしようとすると、残り50パーセントを持つ人がブロックプロポーザルになることもあるので、そのタイミングでは取り入れてもらえることになり、少し余分に待つ必要があるかもしれませんが、全く利用できなくはなりません。
 しかし皆が投票を行うタイミングまで検閲し始めると、本当に耐えきれるのかが現在議論中です。これは未決着のテーマなので注目していく必要があります。余談ですが、投票のタイミングで検閲を行う場合はフォークを伴うようなカスタムソフトウエアが必要だといわれています。ヴィタリックさんもこれは出てきていないとのことでした。
 ステーキングになった場合に、Lidoやコインベースなど大手4社でステーキングETHの6割を占めていることもこの懸念に拍車をかけており、コインベースのCEOもあえて、検閲を要請された場合はステーキングのビジネスをやめるとコメントしており、今後も要注意のテーマです。

 最後に、今後のEthereumのロードマップに関するその他の話を簡単にお話します。今回終了するTheMergeの次に控えているのが、非常に重要であるといわれているSuegeです。これがShardingの導入になっています。これによるRollupのコスト低下と記載しています。RollupはLayer2の技術による別のチェーンで、いくつかのトランザクションをまとめて、Ethereumのメインチェーンのほうにまとめて定期的にダンプしていくような形でバッチ化しています。つまりRollupの運用でEthereumのチェーンにデータが蓄積されます。Rollupを運用する人にとっては、安いコストでEthereumチェーンにデータを刻めれば、運営コストが下がります。ユーザーにとってもRollup上のトランザクションの手数料が下がることになり、より安価にLayer2のチェーンを使えるようになります。これを可能にするのがShardingであり、より安価にEthereumのメインチェーンにデータを残せるようになります。これがRollupを中心としたスケーリングで非常に重要なポイントだといわれています。長時間のご清聴に感謝します。以上です。

 

 

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